良太が頭の中で瞬時にざっと思い描いたところで、男が徐にサングラスを取った。
「急いでいたとはいえ大変失礼いたしました、マダム、お怪我はありませんか?」
丁寧な日本語でそう言って笑みを浮かべたその男を、良太も、老齢の女性も手を口元に充てたまま、食い入るように見つめた。
ついついあの今ならゲス不倫男だろうプレイボーイが主人公の、かの平安時代にその名を轟かした小説の光輝くようなという形容さえ頭に浮かべてしまったほど、男は超イケメン、ド・イケメンだった。
品のよさそうなその老齢の婦人ですら頬を染めて見惚れてしまうような、メチャイケメン男は、流暢な日本語が不思議なくらいエキゾチックで甘く整った顔をしていた。
イタリア系な少し厚みのある唇はチャーミングで、まさしく匂うような、いや、フェロモンダダ洩れな男は、言葉も出てこないほど見惚れているらしいご婦人を出口までエスコートして、ちょうど来たタクシーに乗せた。
男の容姿に見惚れるとかあり得ない状況の良太はそこではたと我に返った。
絶対一般人じゃないよな? モデル? 俳優?
生憎良太が頭の中のデータを総動員してみても、そんな男は引っかからない。
ましてやあれだけのイケメン、一度見たら忘れないだろう怪しげな雰囲気。
などとつらつら考えていた良太の目の前に、いつのまにか戻ってきたその男が立っていた。
「悪かったね、君にも迷惑をかけた」
やるか、このやろ! 的にガン見した良太に、男は明るいバリトンで尋ねた。
「あ、いえ、こちらこそ……、ついあの、すみません」
お陰でそんなしどろもどろな対応しかできない良太に、男は再び笑みを浮かべた。
「上へ行くのかな? どうぞ」
男に先を譲られた途端、ぞわっと秋波を感じた気がして、「失礼します」と良太はぎくしゃくと何とか会釈だけしてエスカレータに乗った。
少し焦りながら一番端の二十一階から三十階行きのエレベーターの前に立ってボタンを押すと、腕時計を見た。
十三時四十五分。
何とか十分前には着けるだろうと、良太はエレベーターが降りてくるのを待った。
すると男が横に立ったので何気に良太は見上げた。
げ! さっきの! イケメンマフィア!
エレベーターのドアがちょうど開いたので、気まずげに良太は乗り込んだ。
続いて乗り込んだイケメンマフィアは、「何階かな?」と聞いた。
「えっと、三十階お願いします」
「了解」
何やら楽し気にイケメンは言った。
その時、え、と良太は三十階以外のボタンが押されていないのに気づいた。
ウソ! 三十階って他にオフィスとか入ってたっけ?
エレベーターの中には二人だけだ。
良太は何やら嫌~な予感がした。
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