「脚本家の坂口さん、プロデューサーの工藤にも話を通してあります。バーの常連客という設定で、カット数は少ないと思いますが。何分、他のキャスティングが難航しておりまして、出揃ったところでまた顔合わせにいらしていただくことになります」
難航しているのは良太の頭の中だけだが。
「いや、何分この子はのんびりとやってきましたし、本人も積極的に俳優の道を極めようというような努力もしていないので、共演者の方に迷惑さえかけなければと思うのですが」
弁解のような野口のセリフの中にも、美亜を大事にしているという思いがうかがえる。
「新さんたら、あたしも少しは努力してるのよ? 発声練習をしたり、いろんなお芝居を拝見したり、エクササイズとかバレエのレッスンも」
コロコロと笑いながら、美亜が言った。
うう、苦労のない発言、これでこの業界やっていけるって?
美亜が、野口を新と呼ぶことからも野口と海老原兄妹はかなり親しいようだが。
良太は心の中でそんなことを思ったが、ふと、本谷和正とマネージャーとの関係を思い出して、この美亜と水谷の関係に違和感を感じた。
「水谷さん、美亜さんのスケジュールは大丈夫でしょうか?」
「はい、今のところ週一でバラエティ番組の出演以外は、単発でいくつかの撮影がございますが、失礼しました、こちらが美亜のプロフィールと今後のスケジュール表でございます」
そう言うと、水谷はブリーフケースから取り出したクリアファイルを良太に差し出した。
「ドラマの撮影では、実際放映する時間は短くても待機時間が長かったりすることもあるかも知れませんが、その間、水谷さんは美亜さんとご一緒に?」
宣材写真が入ったプロフィールをチラリと見たが、ロスアンゼルスで生まれ、中学から日本に帰国、ICUを卒業した後スタンフォードにも留学しており、卒論のテーマも日本におけるダイバシティに関するもので、先ほどのもろに世間知らず的な、のどかな発言とは程遠い経歴が並んでいる。
ひょっとして日本語だからああいった発言になるので、英語ではもっと理論的な話し方になるのかも知れないと、良太は勝手に推察した。
スケジュール表は週に一つか二つ、仕事が入っていればいい方だ。
昨年秋に美聖堂の社長が推した問題女優は、自分の役割を全く理解せずに、主要なキャストの邪魔をしたりして、良太の頭痛のタネで、結局彼女が思わぬトラブルを起こしたために役を降りることになった。
彼女もどこかの企業重役の娘だったが、どうにも勘違いをしていたらしい。
「水谷さんは、美亜さんのお仕事がオフの時には、他の方のお仕事をされてらっしゃるんですか?」
気になって良太はそんなことを聞いてみた。
back next top Novels
