当の良太は、フロントで受け取ったFAXの意味が分からず何だろうと見ていた時、左右に男が立ち、右に立った男に「声を出すな」と耳打ちされた。
二人に両腕を取られた良太は喚くわけにもいかず、黙って男たちに従った。
ほんとに現れやがったのかよ!?
自問しつつ、エントランスを出ると、横付けされたバンに押し込められた途端、車は発車した。
人通りも少なく、街灯も暗いため、騒がなければ誰も気づかないだろうと思われた。
何の用だとか、誰だ、とか聞いたところで、あまり意味がないと、良太は黙って連れ去られるままになっていた。
だが携帯を取られて、車に乗る前に捨てられたことが、良太は面白くなかった。
くっそ、スケジュールとか、見やすい携帯だったのに!
データはバックアップしてあるからいいのだが、また着メロ設定をしなくてはならないのが手間だ。
そんなことを考えながら運転している男の顔がバックミラーに写ったのが見えたのだが、本当に狼男のような髭面の男だった。
両側にいる男たちをこそっと観察すると、こちらもやたらでかくてごつい顔の男と少し痩せぎすで目が鋭そうな男がフランケンとドラキュラに見えてくる。
車はしばらく走って坂を上がっていき、やがて停まった。
薄暗い街灯の下に黒い門が見えた。
ギギギと門が開く音がして、車は中へと入っていく。
割と広い庭の中を車は進み、邸宅という雰囲気の建物の前で停まった。
玄関に入ると中は明るく、ずっと男らに腕を取られたまま通されたリビングのソファに、魔女オバサンが座っていた。
「やっと会えたわね、良太ちゃん。まあ、お座りなさいな」
あんたに良太ちゃん呼ばわりされる覚えはないぞ、と心の中で言い返しつつ、仕方なく魔女オバサンの向かいに座った。
「犯罪まがいのやり方でしか人を招待できないんですかね」
ついつい文句が口をついて出る。
「強気なとこ、いいわね~」
フフフと魔女オバサンは笑う。
「だから、何の用ですか? わざわざこんなところまで」
「だって、こんなところまで来てもらわないと、まともに会えないじゃない?」
「要件は?」
眉を顰めて良太は改めて尋ねた。
「つまんない弁護士みたいな口調はやめてちょうだい」
そこへフランケンが紅茶を運んできた。
ショートケーキ付だ。
「どうぞ? 毒なんか入ってないから。高広の大事な子を傷つけるような真似はしないわよ」
やはりどの程度かはわからないが良太と工藤の関係を知っているらしい。
だが、良太の部屋にも工藤の部屋にも盗聴器や盗撮機器はなかったから、よもやアレの最中の動画などはないだろう、と良太は思いたかった。
ショートケーキ、にはちょっと食指が動いたものの、万が一のことを考えて手を付けるのはやめた。
「何ていうかねえ……」
多佳子は少し遠い目をして溜息をつくと、ぽつりと言った。
「ちょうど高校を卒業する頃だった。軽井沢でね、亡くなった連れ合いと逢ったのよ。連れ合いは十も上だったけど、これがお互いにビビッときたっていうやつ? お互いの身上なんか関係なく燃え上っちゃったものはもう引き返せやしない。劇愛よ」
今の境遇を知らなければ、八十をとうに超えているとは思えない婀娜っぽい美魔女というところか、ダークな赤のルージュにも負けていない目力の強さが際立っているが。
back next top Novels
