霞に月の46

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「良太ちゃん、大丈夫かしら」
 良太の背中を見送ってから、ひとみが工藤の方に視線を向けた。
「ただの高校の同級生だろ?」
 宇都宮も工藤と香坂が談笑しているのをチラリと見た。
「誰? 工藤さんと話してる人」
 小声だがはっきりした声で秋山が良太に尋ねた。
 秋山も意外に思っているようだ。
「高校の同級生だそうです。アメリカから法医学教室に来られた香坂准教授で、偶然久しぶりに会ったみたいで」
「そう」
 良太の説明に秋山は頷いた。
 ただ口には出さなかったが、工藤が笑っているのはあまり見たことがないと秋山は思ったのだ。
 秋山はもう一度工藤と香坂を見た。
 同時に二人を見ている良太の心情を思いやった。
 最近はちょっとやそっとでは動じないようになったが、工藤のことになるとやはりすぐに顔に出る。
 工藤と良太がぎくしゃくすると社内も不安定になる。
 というより、今や良太の動向が社内を左右する。
 常に会社や周囲を客観的に把握していたつもりだ。
 だがもちろん、工藤のことで一喜一憂する良太のことを大切に思ってきたのも確かだ。
 それに、二人が同じような関係のままずっと何ごともなくいられるはずがないとは思っていたが、時折、工藤にちょっとした忠告をしてはみるものの結局は二人の問題だ、秋山には見守るしかなかった。
 しかし香坂については、少し工藤に問いただしてみないとと、何でもないような風を装っているものの、内心動揺しているに違いないと良太を見やる。
 大体、工藤さんも少しは良太のことを気にかけたらどうなんだ、と秋山は憤りに近いものを覚えていた。
「こちら、バイオリニストのヨハンナ・バルツァーさん。ベルリン出身で今、リサイタルで各国を回ってるんだ」
 藤堂が長い金髪の女性を良太に紹介し、良太のことをアビーに紹介した。
 良太は以前、ドイツ出張に行かされた時に無理やり覚えさせられたドイツ語で、自己紹介した。
 ヨハンナはどうやらわけのわからない言葉の中で窮屈な思いをしていたらしく、片言でもドイツ語を聞いて嬉しかったらしい。
「よかった、言葉が全然通じなくて、日本語を勉強する暇もなかったから、どうしようと思っていたんです」
 と、いきなりドイツ語で良太に話しかけた。
「少し勉強しただけなので、うまくしゃべれませんが、いつまで日本にいらっしゃるんですか?」
「十日滞在します。名古屋と大阪でリサイタルをやりますが、オフには京都などに行ってみるつもりです」
 二人が楽し気に喋り始めると、「おお、良太ちゃん、ドイツ語しゃべれるん? お仲間やん」とヨハンナと一緒にいた三田村が大仰に言った。
「さすが、良太ちゃん。工藤さんの懐刀だけあるなあ」
 藤堂のよく通る声に、周りが振り返った。
 

 


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