工藤も良太の方に顔を向けた。
すっかり良太に気を許したヨハンナと笑いながらたどたどしいドイツ語で懸命に会話をしている良太に、工藤は苦笑する。
だが、ちょっとは良太のことを心配したらどうなんだという藤堂の思惑まで気づくはずもない。
「良太ちゃんって、やっぱすごいんだね」
いつの間にか良太の傍に立っていた直子が感心したように言った。
「ええ? 以前いきなり出張とか言われて、必死でちょっとした会話を叩き込んだだけだよ。通じるもんだね」
良太は答えて、ヨハンナに直子を紹介した。
美紀は佐々木と大森とでアート談議を始めたようだ。
「あれ、あの二人は?」
良太はハッと思い出して直子らと一緒にいた高野と中井を目で探した。
そして料理の前に立つ二人を見つけてほっとする。
「良太ちゃん、ひょっとして、気づいてた?」
その様子を見ていた直子が良太を見上げて聞いた。
「え………」
良太は困ったような顔の直子を見ると、「まあ、ね」と答えた。
「だって、どうしても行きたい、ちょっと変装すればいいでしょって言うし」
「そっか」
「でも、普通に行けばいいのにって言ったら、秋山さんに、目立ちすぎると他の女性が困るかもとかって言われたって」
良太ははあっとちょっと項垂れる。
「まあわからないでもないのよ。ほら、秋山さんも参加するっていうのに心配だったんじゃない?」
「確かに」
ふうっと良太はまた一つ溜息をつく。
直子の言ってることはもっともなのだ。
「でもさ、何で二人?」
良太は直子に聞き直す。
「交流会のこと話したら、あたしも行きたいって」
良太はどうしたものかと再び二人に目をやった。
「クッソ、眠気覚ましにコーヒーでも飲むか」
その時、声高にそんなことを口にしながらバーの方へ歩いてく京助に、「徹夜明けに寝とったらええやろ」などと千雪の声が追う。
「シャンパンくださる?」
「コーヒー頼む」
バーの前で二人の声が重なった。
「お前も来てたのか。しっかしなんだ? アスカ。そのクソだっさい眼鏡。千雪のマネかよ」
笑う京助の声はただでさえ通りがいい。
二人を振り返ったのは良太だけではなかった。
「ちょっと、声が大きいわよ、静かにしてよ」
というアスカの声もよく通る。
ようやくアスカに気づいたらしい秋山が、二人に歩み寄った。
「何やってるんですか? こんなとこで、そんな恰好で」
「ほらもう、京助が大声出すから!」
アスカは京助に文句をぶちまける。
「京助さんに文句を言うところじゃないでしょうが」
秋山がアスカを窘める。
「だって、良太もユキもいるのに、あたしはダメって差別じゃない?」
アスカは開き直って眼鏡を取った。
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