「あれ、良太?」
玄関に続く応接間の前で紫紀と仕事の話をしていた工藤は、玄関に向かうひとみや宇都宮、天野や下柳らから一人離れてあたりを見回している紗英に気づいた。
「紗英さん、お迎え待ってるん?」
すると京助と一緒にやってきた千雪が聞いた。
「ううん。六本木行くんだけど、どこ行ったんだろ、良太」
工藤は紫紀と話しながらも、紗英の言葉が耳に入った。
六本木?
送っていくと言っていたが。
不意に工藤の脳裏に違和感が広がった。
「あ、すみません、お待たせしました」
やがて良太が早足でやってきて、工藤や紫紀らに、「お疲れ様でした。お先に失礼します」と声をかけ、紗英を促して玄関を出て行った。
さっきからえらく話し込んでいたようだが、そういうことか。
工藤が覚えた違和感は、良太がわざわざ嘘をついたということだった。
何か後ろめたいことでもない限り、嘘をつく必要などないだろう。
まあ、いずれそういうこともあるだろうと思っていた。
若い良太が、いつまでもオヤジに義理を立てることなどないのだ。
工藤は自嘲する。
だが、心の奥をすっと冷たい風が吹き抜けるような、そんな気がするのを工藤は否定できなかった。
工藤は秋に封切られる『大いなる旅人』のプロモーション関係で、週末も何もなく飛び回っていた。
良太もいよいよ『コリドー通りでよろしく』が金曜日夜からオンエアされるため、それに伴う番宣などで宇都宮と小笠原とともに動いていた。
もちろん、撮影もまだ続いている。
さらにドキュメンタリー『和をつなぐ』の第一回が土曜日夕方にオンエアされる。
こちらもプロモーションやギリまで手を抜かない下柳の編集作業に顔を出したりと良太はあちこち動いていた。
SNSでの広報活動では両番組とも手ごたえを掴んでいる。
『コリドー通りでよろしく』は無論人気俳優二人がタッグを組んで情報番組に顔をだし、テンポよい紹介を繰り広げているので、SNSでもキーワード検索で急上昇し、盤石のスタートが期待できそうだった。
一方、地味なドキュメントにもかかわらず、こちらもキーワードが上昇したのは、偏に、第一回の「松風」に登場する佐々木が予告画面に映し出されたからだ。
佐々木のショットは極力放映が近づいてからとなっていたが、映された途端、美形、茶道男子、その他、佐々木に関するキーワードが飛び交っている。
とにかく、あれは誰? という問い合わせが局にも会社にも一時殺到した。
森村と鈴木さんに対応してもらったが、沢村までが電話で良太に文句を言ってきた。
「佐々木さんを出すのなんか、やめろ」
テレビで予告ショットを見たらしい。
やめられるわけがないだろ。
良太は呆れて相手にしなかったが、自分は全国津々浦々まで顔が知れ渡っているというのに、沢村は佐々木のことをこれ以上人に知られたくないのだ。
back next top Novels
にほんブログ村
いつもありがとうございます
