乃木坂に着くと、良太は三軒茶屋までのタクシー料金を上乗せして運転手に支払い、「お疲れ様でした」と天野に声をかけて車を降りた。
「お疲れ様です。また、飲み、行きましょう」
ドアを閉めようとした良太に笑顔で天野が言った。
「はい、ぜひ」
良太はそう答えるとタクシーを見送った。
腕時計を見ると既に午前二時を回っていた。
上を見上げると灯りはついていなかった。
「高輪行ったのかな」
それとも、香坂准教授と一緒なのかなと心の中で良太は思う。
来週どこかでとか言ってたけど。
知的で美人で陽気な法医学者は今まで工藤の周りにいた女性とは一線を画しているように思われた。
もしかして、恋人だったちゆきさんもあんな感じだったのかもしれない。
もちろん、久しぶりに会ったということもあるかもだが、いつになく工藤は彼女と話しが弾んでいるように見えた。
部屋に入るなり、二匹の猫がなあなあと走り寄ってきた。
しばらく猫の世話をしてからスーツを脱いで着替えると、携帯のラインに通知が入っているのに気づいた。
一つは天野からで、「今日はありがとうございました。またよろしくお願いします」と丁寧にメッセージが入っていた。
そして一つは千雪からだった。
「こっちがわざわざ仕掛けんでも、勝手に二人急接近してくれたな。思わぬ偶然やったけど、もしかすると進展するかもな」
進展する、つまりはそういうことだ。
いよいよこの部屋も出て行かないとかな。
でも仕事は何とかやっていかないと。
何せ、工藤にはでっかい借りを返さないとだし。
この会社、俺がやめたら、ただでさえ人手不足なのに大変なことになるのはわかっているし。
何とか、やっていかないと。
良太は知らず拳を握りしめた。
週明け、香坂准教授から電話が入ったのは、良太がこれから出かけようとしている時だった。
「良太ちゃん、香坂さんて方から工藤さんにお電話なんだけど」
鈴木さんが受けた電話を保留にして良太に言った。
「え……、あ、俺出ます」
何だろうと思いながら良太は受話器を取った。
「お世話になっております。広瀬です。申し訳ございません、工藤は明日まで出張なんですが」
すると電話の向こうで「やっぱ忙しいんだ」と陽気な声が聞こえた。
「ごめんね。明日の夜とか空いてるか聞こうと思って携帯に電話入れたんだけど、全然音沙汰ナシだから、会社に掛けちゃった」
工藤は忙しい時は電話にも出ないし、メールなんか全く見ない。
留守電は聞いているかもだが。
良太はそんなようなことを香坂に説明すると、「何か急な用事がなければ、明日の夜は東京に戻る予定になっておりますが」と付け加えた。
映画のプロモーションで、工藤は主演の志村とともに今日は大阪、明日は名古屋の予定だ。
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