中学でも工藤の伯父がヤクザだという噂はあっという間に広まっていたから、曽祖父は後見人の顧問弁護士を通じて工藤を私立の高校に行かせるように手はずを整えていた。
生徒のほとんどを海外からの赴任組の子どもや帰国子女が占めていた高校では、相変わらず工藤の出自は知られていたが、だからといってそのことで工藤を特別扱いするようなこともなかった。
その頃には体格もぐんと大きくなり、成績も常にトップを走っていた工藤だが、香坂の言うようにいつも人を寄せ付けないバリヤーを張り巡らしていたため、周りは遠巻きにして取り立てて仲のいい友人もいなかった。
そんな中で、声をかけてきたのが香坂や加絵だった。
「そう言えば加絵とは会ったりした? あの子、高校の時、高広に夢中だったじゃない」
「ああ、昔、仕事でイタリアに行った時、ちょっとな」
「それだけ?」
「准教授だって? こっちにはいつまでいるんだ?」
工藤は話題を変えた。
「何それ。とっとと帰れって? まあ高広が結婚してくれるんならこっちに残って教授になることも考えてもよかったんだけど」
工藤はフンっと鼻で笑う。
「俺はやめといた方がいいぞ。そのモラ男よりたちが悪いからな」
「わかったわよ、今は聞かないでおいてあげる。高広の大事な相手のことは。高広をそこまで悩ませる相手って知りたいのは山々だけどさ」
「おい、誰がそんなことを言った?」
「ほら、焦ってそういう台詞が出るってことは相当入れ込んでるわね」
工藤は思わず眉間に皴を寄せる。
「ま、とにかく、京助がいるじゃない? 彼、相当切れ者だし、向こうに留学してた時もしょっちゅう教授陣が舌を巻いてたよ。京助が教授になるのは必然ってとこ?」
「ほう?」
千雪の尻を追いかけているだけの男じゃないとは工藤も思っていたが。
「でもさ、不思議ちゃんは彼よ」
「不思議ちゃん?」
香坂の妙な言い回しに工藤は聞き返した。
「小林千雪。法学研究室の」
「ああ」
「あの眼鏡とか鳥の巣頭とか、なんっか不自然な気がするのよね」
香坂はデザートをつつきながら小首を傾げた。
工藤は今頃気が付いたのだが、香坂は胸元の大きく開いたワインレッドのタイトなドレスにプラチナのチェーンネックレス、豊かな黒髪を垂らして、いつぞやの交流会とは打って変わってエレガントな装いだ。
「それに京助はメチャモテのくせに女っけなしで、何かって言うと千雪、千雪って、これは私の勘だけど、あの二人、京助と千雪って付き合ってるわね」
それを聞くと工藤はハハハと笑った。
さすが香坂だと内心思う。
鋭い人間観察力だ。
「あら、笑いごとじゃないわよ? 向こうだと普通にいるからそういうカップル。ま、日本じゃ、まだ公にもできないみたいだから、ここだけの話だけど」
つい、いつもの調子でデザートを香坂の方へ押しやった工藤だが、「ええ? さすがに無理よ、これ以上入らない」と拒否られた。
良太なら喜んで食べそうなクレームブリュレだったが。
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