午前中はデスクワークをこなし、午後からヤザキ製菓の東京本社で打合せを終えて一旦オフィスに戻ると四時になろうとしていた。
「あ、良太、いた!」
ややあって、秋山を伴ったアスカがオフィスに立ち寄った。
「お疲れ様です」
何だろうと良太はアスカを見た。
「ねえ、良太、今夜とか、時間ない?」
いきなりアスカに問われて、「今夜は多分、コリドー通りのロケで遅くなるかと思います」と良太は答えた。
何となく、何かを言いたそうな、聞きたそうなアスカを敬遠したい気持ちがあって、良太はロケへと逃げを打った。
「ふーん、じゃ、時間空いたら教えて」
「わかりました」
本当は少しオフィスで休んでから、銀座へ向かおうと思ったのだが、アスカらがいるとまた何か聞かれそうな気がして、良太はタブレットをブリーフケースに放り込むとデスクを立った。
「行ってまいります」
良太が出て行くと、「ねえ、やっぱ変よね、良太」と窓際のソファに陣取ったアスカがボソリと向かいに座る秋山に話しかけた。
「まあ、確かに、いつもの覇気がないですね。疲れもあるでしょうけど。今朝金沢から戻ってきたようですし」
秋山もタブレットを覗き込みながら答える。
「それはそうだけど、あたしのこともさり気に敬遠してない? あの子」
「うーん」
秋山はちょっと考え込んだ。
「良太ちゃんが殻に籠ると厄介かもね。膠着状態というより二人ともお互いに避けているのかも……」
ややあってボソリという秋山にアスカは難しい顔をして唇を尖らせた。
「工藤さん帰ってきたら、言ってやってよ」
「と言われてもね~」
さすがに渋い表情で頬杖をつくと、秋山は口元を片手で覆う。
「まあ、できる範囲で、ですね」
二人のことに外野が首を突っ込むのもどうかと思うのだが、秋山としてもこのまま行くと良太が辛そうな顔をみせることになるような気がして、何もしないのは不本意だった。
とりあえずロケに同行したヤギさんにちょっと聞いてみるか。
「さて、食事をしてからスタジオに向いましょうか」
秋山が立ち上がった。
消化不良の顔で、アスカも不承不承秋山の後を追った。
きらびやかな銀座の表通りから中に入った通りは少しばかりトーンダウンするもののそれはそれで昭和からずっとそこにあったらしい古い大理石を使った階段のあるビルなど、さびれた感がかえって情緒を醸し出している。
森村はここのところずっと『コリドー通りでよろしく』のロケに立ち会っていて、工藤や良太と連絡を取りながら、差し入れの手配からクルー全体に気を配りつつ、AD感覚でみんなに使われながらもニコニコとちょこまか動いていた。
「良太さん、お疲れ様です」
「おう、お疲れ様。どう?」
顔を出した良太を見つけてすぐ声をかけてきた森村に、良太が聞いた。
「順調ですよ」
「そう」
カットの声がかると、宇都宮も良太を見つけて「お、良太ちゃん」と声をかけてきた。
「お疲れ様です」
「うん、良太ちゃんは随分お疲れ様のようだね」
鈴木さんに言われたようなことを宇都宮にも言われ、「ハハ、今朝金沢から帰って来たんです」と良太は答える。
back next top Novels
にほんブログ村
いつもありがとうございます
