「身体休めないとダメだよ? モリー、頑張ってくれてるし。そうそう、さっきなんか、通りがかりの金髪人種が困ってたんで道案内までやってくれてたよ。英語、できる人は尊敬に値するね~」
宇都宮に持ち上げられた森村は「や、向こうで育ったというだけで」とちょっと笑う。
最近、日本に慣れてきたというか、森村が謙遜することを覚えたのは、いいのか悪いのか、と良太は思う。
『コリドー通りでよろしく』は先週初回が放映されたが、世帯視聴率、個人視聴率ともまあまあの滑り出しで、配信登録数もぐんと数字を上げている。
それに気をよくした坂口はもう第二弾の話をしている。
このまま調子よく最後まで走り切れば、二シーズン目もありかもだが、問題は宇都宮と小笠原のスケジュールだろう。
特に宇都宮は来年一杯はスケジュールの空きはなく、再来年もほぼ埋まっているらしい。
「まあ、坂口さんのことだから、どこかしら綻びを見つけて付け込んでくるから油断がならないんだけどね」
宇都宮本人は飄々とそんなことを口にする。
ロケは十一時を前に終了し、スタッフらが片づけに入ると宇都宮や坂口が飲みに誘うのを良太は丁寧に辞退して、森村が持ってきた車にコーヒーポットやらゴミやらを積むのを一緒に手伝った。
「良太さん、車は?」
「ああ、向こうのパーキング」
「じゃあ、俺、会社によってこれ置いて帰ります」
「おう、よろしく頼むわ」
「お疲れ様でした!」
最後まで元気印の森村はそう言うと車に乗り込んで去った。
森村を見送ってパーキングに向おうとした良太は、「あれ、広瀬さん?」という声に顔を上げた。
「天野さん、船岡さん、お疲れ様です」
前からやってきたのは俳優の天野と天野のマネージャーで、所属するスカイプロモーションの船岡だった。
「奇遇ですね、ロケ、『コリドー通り』でした?」
「ああ、はい、さっき終わったところです」
船岡も天野もきちっとしたスーツを着ている。
「私ども、舞台の監督さんに今夜はご馳走していただいた帰りなんです」
当たり障りなく、船岡が言った。
「そうでしたか」
「では、失礼いたします」
「失礼いたします」
丁寧に頭を下げる船岡につられて良太も頭を下げる。
「まだ電車があるから私は新橋駅から帰るけど、君はタクシーを使いなさい」
背後で船岡の声が聞こえ、天野が低い声で何か言っているらしかったが、良太は腕時計を見て時刻を確認して、車を置いたパーキングへと向かった。
ところが地下駐車場へ降りるエレベーターを待っていると、再度「広瀬さん」と呼ばれて、えっと振り返った。
「あれ、天野さん、何か、ありましたか?」
走って来たらしく、少し息を整えてから天野は言った。
「あの、この後よかったら、飲み、行きませんか?」
思いがけない誘いにちょっと戸惑った良太だが、モヤモヤが晴れないままの胸のつかえを抱えて帰るのが億劫な気がしていた。
「あ、いや、急に言われても困りますよね」
良太の逡巡を拒否と捉えたらしく天野が苦笑した。
「いえ、行きましょうか。明日、大丈夫なんですか?」
「午前中オフなんです」
破顔した天野を見て、天野さんも笑うんだ、と良太はこっそり思う。
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