二人は少し歩いて、目にした看板を見て地下にあるバーへと降りて行った。
奥に二人掛けのテーブルがあると言われたので良太はそちらへ案内してもらった。
ただでさえ目立つ天野だ、気づかれて騒がれても困るだろうと思ったのだ。
「俺、こういうツラしてるから、割と人に敬遠されるし、しゃべりも得意じゃないんでむすっとしてるって思われてて、だから連絡先交換とかってあんまししたことないんすよ」
そう言って苦笑する天野は、気取りがなく、真面目な青年だ。
「ダチもこっちには少ないんで、船岡さんが心配して、こないだの交流会も勧めてくれたんです」
天野はウイスキーのロックを飲みながら朴訥とした口調で話す。
「天野さん、出身はどちらなんですか?」
「俺、鎌倉です」
「え、俺、川崎なんです」
「じゃあ、同郷ですね」
天野はまた笑った。
「大学進学を機にこっちで一人暮らし始めたんですけど、そのうち演劇にのめり込んじゃって、一応卒業だけはしたんですが、ろくに就活もしてなかったし、父親が勧めてくれた就職先も一週間で辞めたんで、勘当されて以来家にも帰ってない」
「ええ、そうなんですか? でも、演劇界でも有名な俳優さんだし、もう、お父さんも許してくれるんじゃないですか?」
良太はジントニックを飲みながら、チーズをつまむ。
「さあ、どうかな」
天野はちょっと首を傾げる。
「うちは代々医者で、ちっぽけな医院をやってるんですけど、姉貴が医者になったから俺はいいやって思って高校時代サッカーに明け暮れて、妹も医者になったし、文系の大学行った俺はうちでは落ちこぼれなんですよ」
ハハっと天野は軽く笑う。
「それ、俺もガキの頃からずっと野球漬けで、大学でも野球しかやってなかったから、やっぱろくに就活してなくて、今の会社に拾ってもらえなかったら、どうなってたか」
良太も天野に合わせるように言った。
「でも広瀬さん、T大でしょう? 俺、R大だし、雲泥の差じゃないですか」
「大学なんて、この世界じゃ関係ないですって。自慢じゃないけど野球しかやってなかったから、入社して以来、社長には怒鳴られっぱなしで。お前の頭にはヌカミソでも詰まってるのかって、言われ続けて早何年」
良太は茶化して言った。
「うわ、鬼の工藤って有名なんですよね。あの工藤さんの下でよくやってるって、船岡さんも言ってましたよ、広瀬さんのこと」
ハハハと良太は笑ったが、自分で話していてつい初めて工藤に会った頃のことが脳裏に蘇り、何だか目頭が熱くなって、涙目をごまかすようにグラスの酒を一気にあけた。
「まあ、うちの社長もいろいろあるから。でも天涯孤独で、もういい年なのにほんとワーカホリックもいいとこで、ちょっとは自分を労われって、うちの社員みんな思ってるんですけどね。あ、でも、最近煙草やめたみたいで」
「社員から心配されてるって、いい社長なんですね」
「まあ、うちはほら、小さい会社だし、社員みんな家族みたいなもんなんですよ。割と脛に傷もつ人多いし」
天野はグラスを空にするとお代わりを頼んだ。
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