「それはまた……」
天野は気の毒そうな顔で良太を見た。
「いやいや、もう、いい思い出ってだけで、意気消沈してるわけじゃないですよ?」
「そうですか? さっき歩いてた時、かなり思いつめたような顔をしてたみたいだったから」
「え………」
ひょっとして、だから誘ってくれたのか、と良太はあらためて天野を見た。
「ああ、いや、ここんとこ、仕事が重なってて、疲れてたんだと思います。でもこうして天野さんと話して、ちょっと地の底にめり込みそうだった気分が浮上しました!」
良太はちょっと拳を握って見せる。
「それならよかった。俺でよければいくらでもどうぞ」
天野が言うと二人して笑う。
それからさすがに天野も酔いが回ってきたのか、実は俺もなんですよ、と大学時代に付き合っていた彼女に卒業とともにフラれた話を始めた。
さらに少々泣きが入り始めたので、良太は酔った頭ながら周りを見回して、天野を隠すかのように少し身体を移動した。
「それは彼女が見る目がなかったんですよ。もう人気上昇中ですけど、ドラマとかやったら一気に世間に知れ渡りますよ。彼女を見返してやるチャンスじゃないですか」
良太の慰めに、コクコクと頷きながら天野はウイスキーのストレートをグイッと飲み干した。
「そろそろ出ましょうか。大丈夫ですか?」
「全然、平気」
そう言いながら、天野はテーブルに突っ伏した。
一体どれだけ飲んだのか、良太も酔っていたのでわからなかったが、先に会計を済ませようとテーブルを立った。
「え、どこ行くんです?」
すると天野が良太の腕を掴んで縋るような目で見上げた。
「トイレです。すぐ戻りますから」
二人してヨレヨレになるわけにはいかないと、良太はトイレに寄ってから会計を済ませ、テーブルに戻った。
「出ましょうか。立てます?」
「もちろん」
天野は即座に立ち上がる。
良太は天野の腕を掴んだまま店の外に出た。
「階段、上がれます?」
「平気平気」
酔った人間の行動は予測不可能だ。
天野はダンダンダンと足音を立てて階段を上がっていく。
「う、大丈夫かなあ」
酒には強いと聞いていたから、うっかり自分が酔ってしまったことを良太は失敗したと思いつつ、慌てて後を追う。
「いい風だ」
表に出ると、天野はちょっと腕を広げてそんなことを言った。
良太はちょうど空車のタクシーが向かってくるのを見てすかさず止める。
天野を先に乗せると、良太も乗り込んで運転手に三軒茶屋を告げた。
疲れていたのはやはり良太だけではないらしい。
おそらく監督や固いマネージャーとの食事は天野も肩が凝ったのかも知れない。
車に乗り込むと天野は窓に凭れて眠ってしまった。
首都高に上がってから二十分ほど走ると、タクシーが三軒茶屋出口を降りようとしているのを見て、良太は天野を揺り起こしたが目を覚まさない。
仕方なく、キャロットタワーの近くでタクシーを降りると、階段まで何とか天野を連れていき、倒れ込むように腰を降ろした。
「しまったな。これだったら、俺の部屋にでも連れていけばよかった。ホテルとかってあったっけ」
良太はすっかり酔い覚めして、辺りを見回した。
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