「ほんとは、竹野さんと付き合ってることをマスコミに嗅ぎつけられそうになってるとか?」
天野の言葉に良太は吹き出した。
「それ、三回目だから。ほんとに、竹野さんとは何でもありませんって。しいて言えば、前のドラマのあと、宇都宮さんやひとみさんらと一緒に鍋をしたってくらいで」
「ふーん、鍋仲間ですか。じゃあ、今度のドラマの打ち上げは、ひとみさんとかと一緒に鍋しましょう」
天野は真顔で言うとコーヒーを飲む。
「それはいいですけど、あ、わかった、天野さん、実は竹野さんが好きとか?」
今度は天野が首を横に振り、ネクタイを引き抜いて上着を脱いでベッドに放り、「違いますって。俺、第一、竹野さんとは何の接点もないし、あの交流会で顔を合わせたのが初めてで」と否定する。
「まあ、いいですけど。そういえば、さっき言ってた、誰かに見られてる気がするとかって、ちょっと調べてもらった方がいいんじゃないですか?」
良太は心配そうに天野を見た。
「ええ、船岡さんには言ってあります。そしたら部屋を引っ越すようにって言われて」
「その方がいいんじゃないですか? マジな話、今でも天野さん、人気あるけど、ドラマとか出たら、きっと今の比じゃなく大変なことになるかも。本谷和正さん、知ってます? 彼もドラマ出たらファンがロケ現場に押し寄せてすごかったですよ」
天野はそれを聞いて笑った。
「いやあ、本谷さんは若いしもともと人気あったし、それこそ俺の比じゃないでしょ」
「それは甘いです。本谷さんも結局、引っ越しましたよ」
「うーん、まあ、引っ越すつもりではいるんですが、船岡さんのいうセキュリティのもっとしっかりしたところっていっても、俺のギャラで支払って行ける家賃のとこじゃないとなあ」
天野は眉根を寄せて考え込んだ。
「そうですね。引っ越しっても簡単にはいきませんよね。とにかく、気を付けてください。マスコミってことも充分ありますし」
「マスコミに追われる程の役者じゃありませんよ」
ハハと笑う天野に、「甘いです。この業界、何が起こるかわからない、魑魅魍魎が屯す世界ですからね」と良太は力説する。
そうだよな。
俺、工藤がいなかったらこんな魑魅魍魎の世界でなんて歩けやしなかった。
心の中で呟いた良太ははたと腕時計を見て、「うわ、もうこんな時間。すみません、図々しくお邪魔して」と立ち上がった。
既に真夜中の二時になろうとしている。
猫たちには夕方出る時にご飯を置いてきたから問題はないだろうが。
「もうこんな時間だし、朝、帰ればいいじゃないですか」
天野が軽く提案した。
「あ、いや、そういうわけには」
「俺、ソファで寝ますから、ベッド使ってください」
天野は早速ベッドの上に散らばっている雑誌や服を床に持っていて積み上げた。
「天野さん、床が物置きになってますよ」
良太は思わず笑ってしまった。
「いや、もう、ここんとこ部屋を片付ける気にもならなくて」
天野も開き直って笑うだけだ。
「書棚置いたら……、そっか、引っ越すんならその時の方がいっか」
「そうと決まったら、向かい酒と行きましょう」
「は?」
ハトマメな顔の良太を無視して、天野が冷蔵庫の上に置いてあった冷酒のボトルとグラスを持ってきた。
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