「今夜の花火、工藤さんも行きますよね?」
蕎麦を食べ終えた良太が、工藤に聞くと、工藤は眉間に皺を寄せた。
大体こういう時の工藤は、嫌がってることが多い。
何を好き好んで人ごみに足を運ぶんだとでも言いたいに決まっている。
「バスをレンタルしたので、全員乗れます」
工藤が嫌と言う前に、良太は畳みかけた。
「あら、工藤さんもお仕事のことはお忘れになって、たまにはご一緒に参りましょうよ」
すぐ傍にいた鈴木さんが言った。
楽しみにしていると顔に書いてあるようだ。
「今夜はお天気もいいみたいですよ」
百合子も良太の話を聞きつけて加勢するように言う。
鈴木さんに弱い工藤はついに「はあ、わかりました」と口にせざるを得ない。
にこにこと太陽のように明るく癒し系の百合子は、良太の母と言われなければ年齢不詳タイプだが、中身は鈴木さんや杉田さん風な面倒見よさげな気風を持っている。
即ち、工藤があまり強く出られないタイプだ。
二人にたじたじな工藤のようすに、良太は工藤に見られないようによそを向いて笑いをこらえた。
「俺は時間まで上で休む」
いたたまれず立ち上がった工藤に、「夕食は少し早めにとることになってますから」と良太は声をかけた。
「わかったわかった」
工藤は煩そうに答えて、階段を上がっていった。
花火を見るために早くからの場所取りのようなことは禁止されているが、それでも数時間前くらいからは何も言われないらしいと吉川に情報をもらい、間近ではなくても少し離れた高台があり、そこなら比較的よく見えるらしいと聞いたため、実は真中や井上、それに吉川が知り合い数名を貸し出してくれたので、ご婦人方のために場所を確保していた。
良太や森村、秋山も交代で行っている。
そこまで手を尽くしているのだから、工藤にもぜひ参加してもらわねば。
「代わります。お疲れ様です」
良太と森村は屋台で買ったたこ焼きや焼きそば、お好み焼きなどのほか、平造が作ってくれたサンドイッチやおにぎりをみんなに配った。
「うわ、いただきます!」
吉川の知り合いは高校生くらいの少年たちだが、みんなちょっと威勢がよさそうな雰囲気だ。
「高校の先輩っす。吉川さんにはいろいろお世話になっていて」
額に傷のある大柄な少年はお好み焼きを食べながら言った。
そういえば、いまでこそスマートなイタリアンレストランのオーナーシェフだが、吉川は昔、やんちゃをしていたと良太も聞いたことがあった。
「たまに、いろいろバイトさせてもらってます」
別の少年が言った。
その時、良太は、あっと思った。
ひょっとして吉川は彼らにバイト料を払っているのか?
だよな、ただでこんなことやらないよな。
であれば、吉川に、彼らのバイト料も請求してもらわないと。
「すんげ、タトゥーホンモノっすか?」
森村が半袖のTシャツをまくり上げると、くっきり肩に犬の顔とNever Quitと言う文字が見える。
「ああ、昔買ってたワンコ。兄弟みたいに育ったんだ」
「ちょっと聞いたんですけど、シールズってほんとっすか?」
「うん」
森村はわるびれもせず、少年たちに応える。
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