Summer Break6

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「何でやめたんすか?」
 少年たちは直球で聞いてくる。
「もともと大学行く目的があったからね」
「俺、てっきりタメくらいだと思った」
「童顔だから、年齢より若く見えるらしい」
 森村は少年たちに囲まれて質問攻めもまた楽しげだ。
 しかもちょうどその時、通りがかった欧米人らしきカップルが、森村のタトゥーが見えたのか、シールズかと森村に声をかけてきた。
「はい、アメリカの方ですか?」
「そう。兄が海兵隊だったんだよ」
 カップルは道を聞いてから去っていった。
「すんげ、英語、できるんすか?」
「バカ、シールズっつんだから、あったりまえだろ」
「俺、日系三世で、国籍はアメリカなんだ」
「えええっ!」
 森村の答えに少年たちが大仰に声を上げるのを良太は笑った。
「モリー、どこいっても人気者だよね」
「どこ行ってもすぐ馴染みますよね」
 真中も頷いた。
「俺なんか、何年たっても小笠原さんの付き人だし」
 ちょっと不貞腐れる真中に、「人それぞれだろ! お前はよくやってるよ。あの小笠原相手に」と良太は笑う。
「まあ、そうだね。小笠原と真中、いいバディだと思うよ。現に小笠原の演技の質が上がったし、何よりあの小笠原が礼儀正しくなってる」
 秋山が加勢した。
「うーん、小笠原さんの態度がよくなったのは、美亜さんのお陰じゃないっすか? 今回、美亜さん、家族で渡米してるから寂しいみたいだけど」
「それもあるかなあ。美亜さんって、見てくれと違って、真面目でしっかりしてるよね」
 小笠原が今付き合っているモデルでタレントの美亜を思い浮かべて、良太も頷いた。
「兄貴の方は真逆だけど」
 美亜の兄、海老原礼央は良太が仕事で知り合った今やアメリカでも一目置かれる業績をあげているランドエージェントコーポレーションのCEOである。
 海老原自身は若い頃はモデルなどもやっていたが、イケメンでもバタ臭い顔とキャラが強すぎて、当時MBC局のプロデューサーだった工藤にこきおろされたことを未だ根にもち、たまたまドラマで使った老舗のバーのオーナーだったために、何かと良太に絡んできたのだ。
「ああ、海老原礼央って野口社長と結婚したって、一時大騒ぎだったよな。祖父の元外相が、家名に泥を塗ったとか何とか」
 秋山が苦笑した。
 海老原は、元外相の祖父の命で高校時代付き合っていた野口新と強引に別れさせられたものの、祖父や家に反発していた礼央は、先頃アメリカで野口と結婚したと、ネットでも騒いでいた。
「横暴な祖父に意趣返しって形で初志貫徹したことは認めますけど、やっぱ仕事でもあまり関わりたくないですよ、兄貴の方は」
「やたら良太ちゃんに絡んでたもんな、あの人」
 秋山自身、海老原の祖父ではないが、商社マンの時に濡れ衣を着せられて容疑者にされたことで、容疑は晴れたにもかかわらず、それこそ家名に泥を塗った云々で父親から勘当されるという過去を背負っている。
 ただし、もう秋山家には一切未練を持っていないし、親にも会いたいとも思わないらしい。
「今更ですけど、秋山さん、このあたりに来て、大丈夫なんですか? ご実家ってこの近辺ですよね」
 良太も歯に衣着せぬ物言いで聞いた。
「いや、ほんと今更だって」
 秋山は笑った。
 

 


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