「世襲議員とか、今時ほんと願い下げだ。こっちが縁を切ったつもりでいるし、まあ、たまに心配して連絡くれる姉さんが気の毒かなと思うくらいで」
「沢村もそうだけど、縁を切りたい親とかって、いるもんなんですね」
弁護士に間に入ってもらってまで沢村は父親と縁を切りたがった。
父親と離婚して沢村の家を出た母親とは今のところいい関係性のようだが。
「良太ちゃんみたいに幸せな家族ってなかなかいないかもね。何かしら問題を抱えている」
「え、うちなんか、負債って大きな問題抱えて結局うちも工場も取られちゃったんですよ?」
言い返した良太に、「いや、問題抱えても幸せにやってるって、逆にすごいと思うよ。いい両親だよな」と秋山は笑みを浮かべた。
「まあ、だからうちは親が能天気なだけで」
「仲いいもんな、御家族。そういえば最近、弟が父親の地盤を継いで一期やったけど、二期目が危ないとかで、ちょっと溜飲を下げてるよ」
良太はハハハと空笑いする。
まあ、うちは口げんかくらいはしても険悪にはならないかもな。
うちを取られて熱海に住み込みで働くことになっても、二人とも楽しんで仕事をしてるし。
「あ、いたいた」
その時、聞きなれた声に振り返ると、シルビーを連れた小林千雪が立っていた。
「千雪さん、奇遇ですね」
「この人ごみで、そんな偶然あるわけないやろ? 工藤さんに聞いたら、場所取りに行ってるいうから、大抵このあたりかとあたりをつけてきたんや」
良太はシートに、まあどうぞ、と千雪を招いた。
シルビーは千雪の足元にちょこなんと座っている。
「千雪さんもいらしてたんですか?」
森村も気づいて腰を上げた。
「まあ、夏休みやし、暑いし」
どうせ綾小路のパーティを仕切る京助に連行されたのだろう、と良太は推測した。
「青山プロダクションご一行様も、みんなで避暑なん?」
「ええ、社員とその家族を招待して親睦会ですよ」
秋山が答えた。
「ふーん、えろ、健全な会社になったもんやなあ。昔を思うと、怪しい芸能プロダクションやったもんなあ」
「え、そうなんですか?」
良太が真顔で聞いた。
「それいやみやで、良太。そうかて、まだ万里子さんくらいしかおれへんかったし、たまたま俺がいくと、モデルだか女優だかが工藤さんに泣きついてきて、工藤さんは怒鳴りつけはるし、あの人、工藤さん、あの山之辺芽久を追い払うために、新しい恋人やなんて俺のこと勝手に利用しはってんで?」
「結構、千雪さんもうちとは長いお付き合いですよね」
その話はよく知っている秋山が苦笑しながら言った。
「せやで。ああ、でも、鈴木さんっていう何ごとにも動じない人が入らはったよって今の会社があるんかな、会社の本髄みたいな人やもんな」
「それは同感です。ほんと何ごとにも動じない、それで工藤さんも頭が上がらないんですよねえ」
良太は今頃苦み走った顔で、どうせ仕事の電話でもしているのだろう工藤を思い浮かべた。
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