「椅子は女性陣のため?」
千雪が後ろを振り返った。
先発組は二か所に別れてシートに陣取り、良太らが直に座っている後ろには、折り畳みの椅子が用意されている。
「まあ、うちの親世代ですしね~、小笠原のお母さんとか、鈴木さんや杉田さん、あと女優陣のために」
「なかなか大変やなあ。花火とかたまにはええかもやけど、人ごみがなあ」
千雪は周りを見回してため息をついた。
徐々に人が集まり始めている。
「まあ、アスカさんが言い出しっぺなんですけど、鈴木さんや奈々ちゃんも、花火がみたいって盛り上がっちゃって」
「そらもう、仰せのままに、いうことになるわな」
千雪は笑った。
「けどまあ、ええ夏休みになったんやない? 仕事中毒の工藤さんも連れ出して」
すると秋山が「あの人はこうでもしないと休み取ってくれないですからね」と頷いた。
「そろそろ谷川さんに、バス出してもらった方がいいですね」
良太は携帯を取り出して谷川を呼び出し、待機してもらっているバスの運転手に言ってホテルと別荘をまわって、集まっているはずのみんなを連れてきてくれるよう頼んだ。
「ほな、また綾小路の集まりで」
と良太にあまり気の進まないパーティのことを思い出させて、千雪はシルビーを連れて帰っていった。
「そうか、東洋グループのパーティか」
秋山に問われて良太は頷いた。
「ええ、工藤さんの嫌いなパーティですけど、俺も同じく遠慮したいのが本音です」
秋山は苦笑して、「それは難儀だなあ」などと言う。
「アスカさんも、紫紀さんに誘われたみたいですけど」
家同士親しい綾小路家だが、アスカはもう明後日には都内のスタジオでドラマの撮影が待っているから、とこういう時ばかりは仕事に逃げる算段をしている。
アスカの祖父、洋画家中川幾馬は綾小路家の当主大長とは学友で、パーティにも出席することになっているようだ。
「秋山さん、いつこっちを出るんですか? Uターンラッシュに引っ掛からないようにしないとですよね」
「うーん、明日の夜中かなあ」
「やっぱ、こっちで花火って、きつかったですね」
良太は今朝方軽井沢を後にした志村と小杉や秋山のこれからの苦労をねぎらった。
「まあ、でもたまにはいいんじゃない? お嬢様も楽しんでくれれば」
秋山が言ったように、バスでやってきた一行だが、鈴木さんの娘まどかや亜弓と一緒にアスカや奈々は落ち着く間もなく屋台を回ったり、花火そのものでなくても楽しんでいるようだ。
彼女たちを見守って少し後ろからついていく谷川や秋山の方は、気苦労が絶えないようだが。
菊池夫妻や良太の両親と一緒に最後にやってきた工藤は良太を見つけると、横に腰を下ろし、「お前も休んでないんだろう」と声をかけた。
「いや、ずっとここでみんなとのんびりしてたし。みんながいろいろ屋台で買ってきてくれたんで、何か食べます? ビールとかも冷えてますよ」
「ビールをくれ」
良太がクーラーボックスから缶ビールを取り出して工藤に渡した。
「俺、皆さんに、配ってきますね」
森村は、クーラーボックスを一つ抱えてすくと立ち上がった。
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