雲もない夜空にあがる大輪の花火は響き渡る音とともに人々の目をくぎ付けにした。
大輪の花火が空を彩ると、ただただみんなが見とれた。
良太は夢中で次から次へと上がる花火を目で追いながら、子どもの頃一家で出かけた花火大会を思い出した。
良太も亜弓も父も母も母の作った浴衣を着て、良太は並んでいる屋台に目を輝かせてあっちに行ったりこっちに行ったりと落ち着くことなく燥いでいた。
母は良太の後を追いかけようとする亜弓の手を引いて、父は、こら、良太、と呼びながら、迷子になりそうな良太を捕まえるのにあくせくしていた。
花火が始まると、父親に肩車された良太は、たまやーと誰かが言うのをマネして叫んでいた。
ってか、俺ってほんと、落ち着きのない子どもだったってことだよな。
懐かしいと思い出した花火大会の顛末に良太は苦笑いし、さらに以前イタリアで、息せき切って良太を追いかけてきた工藤のことに思い至る。
大人になってもかよ~。
「花火見ながら百面相か?」
隣の工藤に怪訝な顔で言われ、良太は「いろいろ考えることがあるんですって」とあたりさわりなく言い返す。
花火が終わると、一斉に移動が始まった。
森村や真中が先導して、一斉にみんなが片付け始める。
「平さんもくればよかったのに」
シートを畳みながら、良太がふと口にした。
「いつも見てるからとか言ってたが、人ごみが嫌いなんだ」
クーラーボックスを手に、工藤が答える。
「はあ。頑固ですもんね。お蕎麦だけじゃなくて、ほんとは天ぷらもやりたかったらしいですよ」
「完璧主義だからな。時間がなくて納得がいかなかったんだろう」
すると、傍らにいた百合子が「あら、言ってくだされば、お昼お手伝いしましたのに」と言う。
「いや、皆さんにゆっくりしていただくのが趣旨ですから」
工藤なりに恐縮して言った。
「できることはやらせていただく方が楽しいですわ」
良太によく似た笑顔を向けられると工藤も少し引いてしまう。
「はあ」
「花火見ようってことになったから、今回たまたまだよ、かあさん」
困っているらしい工藤を見て良太が加勢した。
「でも美味しかったわ、手打ちのお蕎麦なんて、滅多にいただけないし」
「よかったね。平さんもそれ聞いたら喜ぶよ」
百合子と良一はそれから花火が大きかったとやら、川崎の花火とどっこいどっこいだとやら楽し気に話しながら歩いていく。
駐車場で待っていたバスに乗り込むと、みんなを見回して人数を確認した良太は、どうやら満足げなのを見て、ようやくほっと胸を撫で下ろした。
後部座席に井上と並んで乗り込んだ工藤をちらりと見やった良太は、工藤も子どもの頃は花火を見たりしたのだろうか、と思う。
この軽井沢か横浜に住んでいた頃とか、工藤にもそんな日があったのではないか。
そういえば、高校時代とかのことなら、香坂先生とかに聞けばわかるかも。
工藤、絶対自分から懐かしんで話すとか、ないだろうし。
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