月鏡16

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 エレベーターが三十六階で停まると、良太は老婦人に肩を貸しながら部屋のドアの前に立った。
「ごめんなさいね、ソファまで連れて行ってくださるかしら」
「あ、はい……」
 良太は見ず知らずの自分が入っていいのだろうかと逡巡したが、老婦人はバッグからキーを取り出してドアを開けた。
「ソファでいいですか?」
 こちらもスイートで上の階と同じようにきらきらと宝石箱のような夜景が一面に広がっている。
 セレブなんだろうな、品のよさげな人だし。
 良太は老婦人をソファまで連れて行くと、「痛むようなら、フロントに電話された方がいいですよ。じゃ、俺はこれで……」と踵を返してドアに向かおうとした。
 その良太の前に、リビングの方から三人ほどの屈強そうな男がいきなり現れ、良太は行く手を阻まれた。
「え、何?」
 ダークな色合いのスーツをビシッと決めた中の一人は、明らかにあの手の職業の臭いがした。
「何だよ、あんたら!」
 良太はその時ようやく、何らかの罠にはまってここに連れてこられたのを察知した。
「そこどいてください!」
 三人が三人ともガタイも大きく上背があり、避けるつもりもないらしく鋭い眼光を良太に向けている。
 それでもひるまず、良太は三人を睨み付けた。
「ごめんなさいね、広瀬良太さん」
 ややあって、背後から声がかかった。
 振り返ると、老婦人は嫣然と微笑んでいる。
 何者だよ、この人!
 何で俺の名前知ってんだよ?!
 魔法使いみたいだと思ったけど、本気で魔女かよ?
「最近、なんだけどね、あなたのことを知ったのは」
 魔女は不敵な笑みを崩さず、まっすぐ良太を見つめた。
「失礼ですけど、どなたです? なぜこんなことを? 俺に何の用です?」
「コーヒーでいいかしら? まあ、ちょっとお座りなさいな」
 まさか、鴻池関係じゃないだろうな!?
 かつて良太を連れ去って監禁まがいのことをした鴻池がまず頭に浮かぶ。
 

 


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