サラリと波多野は断言した。
「はあ………けど、いったい何だってあの魔女オバサン、俺騙して、俺に近づいてきたりしたわけ? わけわかんないし!」
怖いものがなくなった気になった良太は、文句をぶちまけた。
「あのネット動画で、工藤さんが素になって尋常じゃないようすを見て、あなたの存在が何なのか知りたくなったんじゃないですか」
良太はムッとしたまま波多野の言葉を聞いていた。
「ひょっとして、俺のこと邪魔だと思って、とか………」
あり得ないことはないだろう可能性を良太は口にする。
「うーん、どうですかね、だったら返してくれたりしないんじゃないですか?」
そんなことも波多野はクールに言ってくれる。
良太は急に背筋がゾゾっとした。
やっぱり、あのまま簀巻きでコンクリート詰め海の中とかってなったら、誰も俺がどうってわからないじゃん!
この波多野って工藤さえOKならってオッサンだし、俺がどうなったってな。
くっそ!
もし、んなことになったりしたら、ぜってぇ化けて出てやるからな!
魔女め!
遺書とか今のうちに書いておいて、俺に何かあったら、工藤がそれを見つけて警察に届けるっていうやつ。
俺をどうにかしようなんて、千年早いんだよ、魔女め!
良太がああでもないこうでもないと頭の中で対策を練っているうちに、車は乃木坂の会社前に着いた。
「お代は結構です」
波多野は言った。
「このタクシーって、無登録の偽物?」
「まあ、ハロウィン限定のゾンビタクってやつですよ」
初めて聞く波多野のボケのようなセリフに良太は笑っていいのか、マジなのか、戸惑った。
「動画の工藤さんを見たのなら、魔女オバサンもおそらくあなたに何かあれば祖母であれタダではおかないだろうことはよくわかったでしょうから、下手なことはしないと思いますよ」
降りようとした良太に、波多野は付け加えた。
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