月鏡28

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 先代は豪放磊落な男で、対立する者を殺めたこともいくらもあるという。
 中でも警察が嗅ぎ付けた事件で先代が逮捕される寸前、富貴子が平造を身代わりにさせたようだ。
 その豪放磊落な先代をも凌ぐ豪胆さを富貴子は持ち合わせていた。
 今もその世界にいる者としては心優しい伯父の背後で実は組を牛耳っているのは富貴子だと、波多野が言った。
 この世界も表向きは男社会だ。
 富貴子の血を引いて血気盛んな一人娘がいるとしても、跡目はその婿ということになる。
 今のところ大石という若頭の息子が有望ということになっているらしいが、どちらかというとインテリヤクザ風な大石をあまりよく思っていない連中がいて、水面下では数年前から島本組長を次期中山会組長に据えようとする一派と、大石を押す芦田組系列の間で低次元の抗争を繰り広げていたが、若頭の入院騒動以来、争いがエスカレートし、若頭は心臓と糖尿の持病とつき合いながら事態の収拾に努めていた。
 ところが若頭の息子では心もとないと思う島本組の息のかかった連中が想像をたくましくして、芦田組の一派が工藤を担ぎ上げるに違いないという理由で、工藤は既に数回襲われ、九月には冤罪で工藤を葬ろうという事件に巻き込まれた。
いずれにせよ波多野が富貴子に何らかの手を打つだろうことはわかっている。
 だが、富貴子には工藤自身も何か言ってやらなければ気が済まない。
 波多野に連絡を取る必要がある。
 おさまりきらない憤りを沈めるために、工藤はグラスにバカルディを注ぐと一息で飲み干した。

 
 
 
 翌朝良太が目覚めた時にはもう既に工藤は出かけていた。
 柱時計を見ると、時刻は八時を過ぎていた。
 この柱時計は旧工藤邸にあったもので、平造が軽井沢の別荘の倉庫にずっと置いていたのを、最近、良太の部屋を模様替えした際、ついでに工藤の部屋に設置していった大きなもので、時間を知らせる音は結構響く。
 時計が鳴ったような気もするが、眠りが深かったせいか工藤が出て行ったことさえ気づかなかった。
 緩慢に起き上った良太だが、ずっしりと身体が重い。
 夕べは結局工藤に縋るように泣いてしまったのを思い出して、頭がカッと熱くなる。


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