月澄む空に29

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「足に怪我をして救急車で病院に。山倉さんがついて行ってくれたんで、俺、良太さん来るの待ってたんです」
「それで、ぶつけた車は?」
「逃げたんです! 轢き逃げです! ナンバーは携帯に入ってますけど」
 良太はふうっと一つ大きく息をした。
「わかった。とにかく後で俺も病院行くけど、モリー先に病院行ってようす見て来てくれるか?」
「Copy!」
 そういえば、小宮山はマネージャーもつけずに契約なども本人が直に動いているらしかった。
 あそこまでのベテランなら、自分で動いた方がやりやすいのだろうが、どちらかというと、お金の問題なのではと良太は思った。
 いずれにせよ、責任は良太の肩にかかってくる。
 先日の入院騒ぎといい今回の轢き逃げといい、保険には入っているものの、青山プロダクションの管理責任が問われるのだ。
 良太はスタッフらに話を聞いている警官に責任者だと名乗って声をかけ、状況を聞いた。
「逃げた車はホンダのブリード、色は青、運転していたのは男のようなんですが、マスクをしてキャップを被っていたので顔はわからないということです」
 引き続き捜査をするという話だが、どこか胡散臭い気がするのは良太だけではないようで、天野が良太を呼び止めた。
「小宮山さん、こけて車にぶつかったっていう話なんですが」
 コソコソとだが早口で天野は言った。
「俺らが並んでたんで向こうから車走ってきて少しスピード緩めたんです。その時、俺、はっきりと運転手がこっちみて頷くのを見たんですよ。そしたら隣にいた小宮山さんが自分から当たりに行ったんです」
「え?!」
 良太は表情を険しくした。
「さすがに動画撮ってなかったから、証拠はないんだけど」
「いや……、そこまでは………」
 怪我をしたのが小宮山と聞いて、事件の様相がこんがらがってきた気がした良太だが、今の天野の話で、小宮山容疑者確定だとはっきりしたと良太は思った。
「ありがとうございます。ちょっと監督と話してきます」
 警察の聴取も終わったらしく、スタッフや俳優陣は当初移動するはずだったカフェへと向かった。
「監督」
 良太の声にカフェに入ろうとしていた山根が振り返った。
「良太ちゃん、一体何なんだろうね、変なことばっか起きるし」
 比較的温厚な山根も難しい顔をしている。
「申し訳ありません、撮影のスケジュールが狂いっぱなしで」
「いや、良太ちゃんのせいじゃないし」
「いえ……とにかく、これから病院に行ってきますが、小宮山さんがこのまま入院ということになると、キャスティングも考えた方がいいのではと」
「うーん、そうだねえ」
「小宮山さん、いい演技されてるんで非常に残念なんですが、山内さんや天野さん他、スケジュールがタイトな方々もおられますし」
「でもあてあるの? こんな急に」
 腕組みをしながら心配そうに山根が聞いた。
「当たってみます」
 実は山根には言わなかったが、他局で志村と多岐川がダブル主演している『老弁護士シリーズ』にも時々出演している西野亨というベテランバイプレーヤーに良太は既に打診していた。

 


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