無論降板予定者の代役などということは伝えていないが、西野は良太の頼みならと何も聞かずに承諾してくれている。
山根に病院へ行くと告げてコインパーキングに戻ろうとしたその時、一台の車が停まり、二人の男が降り立った。
「広瀬さんでしたね」
それはいつぞやスナックの詐欺事件でオフィスを訪ねてきた刑事だった。
「田島さん、と伊藤さん」
「少しお話いいですか?」
良太は何だろうと思いつつ、二人に促されて撮影が行われるカフェではなく、近くの喫茶店に入った。
「詐欺事件で進展があったんですか?」
二人の刑事とテーブルを挟んで向かい合って座り、良太は尋ねた。
「いや、そちらは目下捜査中ですが、実は今日の事件で轢き逃げした車が見つかりまして」
年配の田島が言った。
「それで運転手は捕まったんですか?」
「いや、それが逃げた後で、さらに車は盗難車でした。運転していた男はマスクで顔がはっきりせず、おそらく手袋をしていたらしく指紋も出ませんでした」
「え、そうなんですか」
やはり計画的に事故を装ったに違いない。
「ただ、被害に合われたのがまたしても御社のロケ中で、俳優さんだとか」
「はい、これから病院の方に行って状況を確認しようと思っています」
「今日は社長さんは?」
伊藤が聞いた。
「工藤は出張中で今週末には戻る予定ですが」
ちぇ、俺みたいな若造に聞いても仕方ないとか思ってそうだな。
良太は伊藤の表情からそんなことを見て取った。
「そうですか。単刀直入にお尋ねしますが、御社に恨みを持つような人、心当たりありませんか? いや、こないだは御社の名を騙った詐欺、今回は轢き逃げとなると、何者かが御社の仕事を妨害しようとしているのではないかと」
「広瀬さんは数年前、社長に恨みを持った暴漢に怪我を負わされたそうですね?」
二つ事件が続いたので、どうやら青山プロダクションや社員のことを調べたのだろう、田島は伊藤よりは言葉が柔らかいが、目の色は険しい。
工藤のことはとっくに調査済みだろうけど。
良太は素早く思いめぐらした。
「はあ、あれは犯人の思い込みで、いい迷惑でしたが、この業界、いろんな人がおりますから、いろんな思惑が渦巻いているというか」
「思い当たる人間はいませんか」
「はあ」
良太は首を傾げた。
怪しいのは小宮山だが、今回は被害者という立場になっている。
ややこしいが計画的な臭いがする。
けど、Nシステムとか防犯カメラとか、警察ならそういうのたったか調べて、轢き逃げ犯特定すればいいんじゃないか?
こんなとこで俺なんかに事情聴取するより。
良太は少しイラついて、「そろそろ病院に行きませんと」と立ち上がった。
「ああ、我々も病院に向かいます。被害に合われた小宮山さんにお話を伺うので」
二人の刑事も立ち上がり、良太のコーヒー代も支払った。
「とにかく、何か思いついたらご連絡ください」
「わかりました」
良太はよろしくお願いしますと頭を下げ、コインパーキングに向かった。
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