夢見月24

back  next  top  Novels


「内輪だけだったから、親しい方ばっかだったな。原さんご夫婦とか、九条さんとか、五所乃尾さんとか、あ、今の家元のパパね。あとは理香さんや速水さん、親戚の綾小路さんとか、そんなところ?」
 アスカの言うそんなところ、はやはり著名人やセレブばかりである。
 だからと言って一般人より有利になるわけではないが、実際マスコミには効くはずだ。
「いつまでいました? 写真とか撮りましたか?」
「理香さんとか速水さんが携帯で撮ってたみたい。お食事の後おしゃべりして、たしか十一時は過ぎてたと思う、日付が変わらないうちにって京助がまた送ってくれたから」
 であればアスカのアリバイは呆れるくらい完璧だ、と秋山は確信した。
 動画の日時が確かなら、明らかにフェイクだと証明できる。
 早速良太にそのことを告げるべく秋山は携帯を呼び出した。
 

 

 秋山からアスカの話を聞いた良太は、加藤に連絡を入れると今度は千雪の携帯を鳴らした。
「え、一月二十五日? 確かなん? それやったら、俺らいくらでもアスカさんのアリバイ証明したるわ。公一さんが写真だけでなく動画も撮っとったし、すぐにデータ確認する」
 ドキュメンタリーの撮影中に、良太の携帯に千雪経由で公一からのデータが届いた。
「ほんまにあの不倫動画が二十五日やったら、あの女性はアスカさんやあれへんいうこっちゃ」
 千雪は得意げに言った。
「ですね。とするとほんとにあのフェイク画像、よくできてるというか、何者が作ったかですよね」
「そっちは江藤の周りに絞って山倉らが調べとる。相手は前に江藤が手え出したモデルとかが怪しいし、そもそもあれを誰が何のために撮ったかや。江藤をつついてみたら何かわかるか知れん」
「すみません、俺、ちょっと今動き取れなくて、お願いします」
 良太は携帯を持ったまま頭を下げた。
「ああ、心配せんでええ。まかせとき」
 頼もし気な千雪に良太は、「お願いします」とまた頭を下げた。
「何企んではるんです?」
 千雪が携帯を切ると、向いに座る佐久間がすかさず聞いてきた。
 研究室で電話をしたのがまずかったと、千雪は眉を顰め、「原稿の話や」と適当に返す。
「またまた、怪しいとかつついてみるとか、なんぞ事件なんですやろ?」
「さあな」
 講義も終わったところだったので、千雪はそそくさとバッグを肩に引っ掛けて研究室を出た。
「水臭いわ、たまには俺にも教えてくださいよ」
 佐久間の声が背中を追ってきたが、千雪は振り返りもせずキャンパスを後にした。
 佐久間はまだしも煩い速水とかに捕まる前にと千雪は地下鉄に飛び乗った。
 電車の中で先にデータを送っていた加藤から、「女の映像をアスカさんに挿げ替えたことはわかったが、元データは復活しなかった」とラインが入った。
「今、江藤にあの映像の相手に心当たりあるか、山倉が聞きに行ってる」
 それを読むと、どうやって聞き出してることやら、と千雪はクスリと笑う。
 千雪が思った通り、やがて千雪の部屋にやってきた山倉は、ソファに腰を下ろし「ちょっとつついたら、江藤のオヤジ、げろったぜ」と言った。
「どないしてつついたん?」
 千雪が山倉の前にコーヒーを置くと、「どもども」と山倉はコーヒーをぐびりと飲んだ。

 


back  next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
いつもありがとうございます