夢見月25

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「江藤が前に関係したらしいってモデル、昔江藤が共演したっていう番組から見当つけて、同じ事務所のモデルに近づいて聞き出したら、まあ簡単に詳細まで話してくれたぜ」
 一見優し気なイケメンの山倉はやたら女子に受けがいい。
「今話題の不倫動画も、あれ、絶対リーナだよね、ってさ」
「リーナ?」
 千雪が聞き返すと、「江藤のオヤジ、手出してたってモデルとずっと続いてたらしくて」と山倉は苦笑いする。
「リーナのことで話があるって言って、江藤の携帯に電話して俺の車まで呼び出したら、あのオヤジすっ飛んできて」
 山倉はそこでまたコーヒーを飲む。
「金は払っただろう、何であの動画をマスコミに売ったんだってんで、俺に詰め寄りやがるから、誰に金を払ったか、誰が動画を撮ったのか、って逆に聞いてやったら、オヤジ、あっさり吐いた。リーナの所属するモデル事務所が、二人の動画を撮って江藤のオヤジを脅したらしい。五千万払って、事なきを得たつもりが、マスコミにあんな形でばらされたから、江藤も事務所に怒鳴り込んだが、事務所は動画を盗まれたとかってしらばっくれるし、アスカとの不倫問題がえらく盛り上がるしで、妻には今度こそ最後通牒突きつけられてるみたいだぜ」
 それを聞くと、「なるほど。江藤も事務所も脛に傷持つ身やから下手に口にでけんいうわけやな。とにかく、フェイク動画作ったのがその事務所かどうか、調べなあかんな」と千雪は言った。
 翌日、青山プロダクション側の緊急記者会見が行われ、工藤の先輩プロデューサー紺野を通じてMBCの情報番組でそのようすが独占放映された。
「以上のことが判明したため、この動画が撮られた日時は本年一月二十五日午後十時頃と断定しました。その時刻、中川アスカは東洋グループ会長の誕生パーティに出席、午後七時頃から十一時過ぎまで綾小路邸内にいたことがわかっています」
 小田は会見の前に、江藤が所属する事務所と打ち合わせをし、先方の要望で動画が江藤が付き合っているリーナの事務所で撮られたものだということは今回は伏せることとした。
 そのため、動画の撮影に関しては公表せず、動画に移っているのはアスカではなくフェイク画像であること、さらにその事実を踏まえると、今回の文化芸能の記事自体も事実無根であると強調し、告訴の準備をしていると、小田は強い口調で告げた。
 これには文化芸能は焦ったようだ。
「聞くところによると、文化芸能、ネタ元を信じてたらしく、いつもはきっちり裏を取るのに、あの動画については、いつのものかとかまでわからないままだったって話で」
 藤堂から良太に連絡が入ったのはその夜のことだった。
「そうですよね、文化芸能、滅多に外したことないから、今回もてっきり業界内みんな騙されたってことでしょう」
 決定的な証拠をつきつければ、アスカの不倫疑惑は撤回されるだろうと思っていた良太だが、なかなか一度広まった噂は完全に消えるまではいかなかった。
 それでも一応、情報番組はこぞってアスカの不倫疑惑を否定し、アスカは被害者だと結論付け、今度は文化芸能が叩かれることになった。
「じゃあ、中川アスカ、シロだったんだ?」
「可哀そう!」
「大体、不倫ネタばっかもてはやされるってのはどうかと思う。もっと、つつかなきゃいけないことがあるだろう! ふがいない政治家とか!」
 お陰でSNSでは濡れ衣を着せられたアスカへの同情ポストが溢れた。
 しかし依然として誰がフェイク動画を作ったかはわからずじまいだった。

 


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