「ほんとに助かった。ご自宅の方はクリーニング業者を入れて、きれいにしてもらったから、くれぐれも万里子さんにお礼を言っておいてくれよ」
アスカがマスコミの手から逃れるために、自宅を提供してくれた万里子や井上には良太も感謝しかなかった。
お陰で、一番マスコミがうるさかった頃には、アスカを隠すことができたのだ。
「改めてお礼はするので」
「何、水臭いこと言ってんだよ。工藤ファミリーは一蓮托生だろうがよ」
井上は良太の背中をバシンと叩く。
「その、ファミリーって、やめろ」
聞きようによっては何か別のの組織と間違われそうな言い方に良太は眉を顰める。
「しっかし、何だよな、この会社も、妬み嫉み、いろいろで変な事件に絡まれるよな」
井上に言われなくても、これまでにもいくつかの事件に絡まれている。
表沙汰にはなっていないが、実はいわゆる反社会組織絡みで工藤を狙ったものから、工藤の仕事絡みで、工藤の周りの人間が被害を被りそうになったものまで、それなりの解決をみてきたが、今回については工藤絡みともいえないと良太は思う。
江藤とその恋人を盗撮した動画が使われたことをみると、江藤絡みではないかと思うのだが、そうするとアスカは全くの被害者だ。
気丈な性格のアスカであっても、短期間にもかかわらず書き込まれた膨大な数の誹謗中傷の嵐を受け止められるわけがない。
アスカにはネットも見ないようにと秋山が携帯も切っていたのだが、それでもテレビをつけた拍子に見てしまったりと、完全にはシャットアウトできなかった。
本人は全然平気、とあっけらかんとしたものだが、自分でも気づかないところで、心の奥深くに傷を負っていることもあり得るのだ。
「中川アスカはまだ不安定な状態ですが、いずれ元気な姿でお目にかかれることを本人も望んでいます」
撮影後にスタジオを出たところでテレビのレポーターに捕まった良太は、きっぱりはっきり受け答えをした。
中傷被害を受けた者を追い詰めていくのはマスコミだろう、と良太は向けられたカメラを睨みつけていたので、あとからそれを見た直子に、「なんかすごい目力を感じた」などとわざわざラインをもらったりした。
「本気でマジになると、良太ちゃん、凛々しくてカッコいいよね!」
「持ち上げてくれても何もでないから」
こんな他愛無いやり取りができるようになっただけでもよかったとは思う。
だが、まだ終わったわけではない。
文化芸能は担当編集やネタ元が雲隠れしました、で幕引きを図ろうとか思っているのかもしれないが、そうは問屋が卸さないぞ! と良太は腕組みをする。
工藤が怒り心頭のままなのはよくわかっているし、黒幕をつきとめないでは終わらない。
千雪も思うように進展しないことにイラついていたが、猫の手軍団も動いているし、工藤に言われなくても、小田弁護士もうやむやにはしない、とばかり、事務所の今は弁護士となった遠野に調べさせているようだ。
一方、秋山はアスカのスケジュールをかなり緩くして、ゆったり始動するらしい。
明後日あたり、久々録画撮りがあるようだ。
蛇の道はヘビ、とばかりに、翌日、良太に新たな情報をもたらしたのは、プラグインの藤堂だった。
「シンガポールに高跳びですか!?」
スタジオを出たところで電話に出た良太は、つい声を上げた。
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