夢見月30

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「加藤が仕掛けといた網にかかりよったらしうて」
 千雪が声を落として言った。
「勢い込んでさっき連絡してきよったんですけど、何や、制作プロダクションに所属しとったらしいねんけどそれやめて、闇バイトみたいな形で、ダークウェブでフェイク動画作りまっせいうて、ぼろ儲けしとるやつが例の江藤の動画を江藤とアスカさんの不倫動画に仕立て上げた張本人やて」
「確かか?」
「加藤の言うには、プログラマーでもハッカーでもどっかに自分のサインみたいなもんを残しとるもんらしい。そいつも動画のどっかに自分のサインくっきり残しよって、同業者がみたらすぐわかるて。スナイパーこと斉藤一喜いうやつで」
「だれがそいつに依頼した?」
 イライラと工藤が尋ねた。
「それですねん。そいつ金で釣ったらあっさりIPアドレス吐きよりましてん」
「誰だったんだ?」
「いやそれが、IPアドレス、ネットカフェで」
 それを聞くと工藤のイラつきはさらに増した。
「結局わからんのか!」
「そう、急かさはらんと。ここからが謎解きの醍醐味ですやろ」
 工藤は余裕をかます千雪を睨みつけた。
「加藤がPCでそのネットカフェにちょっと裏からお邪魔したら、そのIPアドレスから依頼があった時間そのPC使こたやつが、店のカメラのデータから、岩井省吾いうやつで、人相風体もわかったんで、山倉らが調べたところ、何や身分証明本人の使うとってんな、そしたら」
 工藤は時々余計な注釈をつける千雪の話を、それでも辛抱強く聞いた。
「ファストフードで妙な中年男と会うとって、店出た後二手に分かれて、山倉はその中年男の後つけたら、辿り着いた先は高田馬場のしょぼいビルにある興信所やったと」
「興信所?」
 工藤は表情を険しくした。
「三島興信所いう、ググったら、個人企業を問わず信用調査、社会関係調査からあらゆる調査業務いうんが業務内容で、山倉が送ってよこした三島の画像みたら、まあ、警察崩れやろいう顔付きで」
 そこで千雪は言葉を切った。
「それでどうしたんだ?」
 いきなり黙り込んだ千雪を工藤は訝し気に見た。
「ここから先は、あんまり聞かせとうない人もおるねんけど」
 千雪はそう言いおいて続けた。
「しばらくその三島を張っとったら、またこれが池袋の割と高そうなクラブに入っていきよって、残念ながら気軽に山倉らが入っていける感じやのうて外で待っとったら、三十分くらいで三島出てきたらしいけど、一緒に出てきたんがあの、真岡弁護士やったんですわ」
「何だと?」
 その名前を聞いて、さすがに工藤も一瞬言葉を噤む。
 真岡弁護士といえば、日本の大企業の一つ朝日産業及びその社長沢村宗太郎の顧問弁護士である。
 沢村宗太郎は先日MLBに移籍したばかりのプロ野球界屈指の人気スラッガー沢村智弘の父親であり、いつぞや真岡を通してその息のかかった調査員を使い、沢村の素行調査をしたことから端を発し、当時スポーツ紙のスクープで沢村とアスカの熱愛報道が取り沙汰された後、アスカのことまでも盗撮や盗聴をしたため、小田弁護士から住居侵入などの違法調査について訴訟を起こすと脅したところ、向こうは示談でおさめる代わりに今後一切沢村に対しても関わらないという誓約をしたはずだった。
 その時の調査員はクビを切られたらしいと小田から後になって工藤も聞いていた。

 


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