「白河です。よろしく。やだ、てっきりお腹の出たおじさんかと思ってたわ、プロデューサーっていうから」
キャラキャラ笑うが何となく品がいい。
にしても元来明るい人らしいと良太は白河を見て取った。
「でもほんとにプロデューサー? 実は売り出し中の若手俳優さんとかじゃなくて?」
「プロデューサーです」
もはや例によってともいえる言い方をされて、良太は笑みを取り繕うしかない。
焼き穴子と菜の花辛子醤油和えや焼河豚と揚げ蓮根、刺身の盛り合わせなどと一緒にさっきオーダーした生ビールがくると、白河は冷酒のグラスを掲げて「よろしくお願いします」というので、良太はジョッキをグラスに合わせて「こちらこそよろしくお願いします」と顔色も変えずに冷酒をあけている白河もまた酒豪らしいと思いつつ、所作のきれいさに気づいた。
プライベートでも姿勢よくて品のいい指の動きといい、家元夫人をやらせても似合いすぎな雰囲気だ。
千雪さんの目が確かなのか、それともまぐれなのか。
「失礼ですが、白河さんはお茶やお花など嗜まれるのですか?」
「茶道師範の腕前だ。なんだ、それを調べたからオファーしたんじゃないのか?」
白河に代わって工藤が答えた。
「え、そうなんですか? すみません、小林先生のご希望だったものですから」
ってより、この人なんかええんちゃう? とかって、あれはまぐれ以外の何物でもないな、と良太は千雪の顔を思い浮かべた。
「あら、ほんと? 嬉しい。小林先生の作品、ほとんど読んでるし、工藤さんとこでやってるドラマもみてるわ。実は出てみたいって思ってたのよ」
「断っただろうが」
工藤に突っ込まれると、「待ってましたって飛びつくのはねえ」と白河はすまし顔で冷酒をあけた。
菜の花のからし醤油和えを口にしながら、良太は白河と工藤のやり取りを眺める。
絶対、ただの仲じゃないって。
心の中で断言した良太は、つい、「白河さんは社長と以前からのお知り合いなんですね」と口から言葉が勝手に飛び出していた。
するとちょっと眉を顰めた工藤の表情を、良太は見逃さなかった。
「そうねえ、かれこれ十五年くらいになるかしら。工藤さん、MBCでまだキリキリ怒鳴ってた頃からだから。私もデビューして数年だったから、まだお互い若かったわよねえ」
意味ありげに工藤を見やる白河の視線に、工藤は金目鯛をつつきながら、「お互い年を取ったってことだ。旦那は元気か」などと言うのが、良太にはわざとらしく聞こえる。
「旦那とはお互いに干渉しないことにしてるのよ。子供が生まれたから結婚って形をとったけど、家庭はフラットでいた方がいろんな意味でスムースでしょう」
そう言うと、これ美味しい、と言いながら白河は茶碗蒸しをスプーンで食べ始めた。
互いに干渉しないとかって、互いに何やっても家庭に持ち込まなけりゃいいってことだろ、確か、この人の旦那って結構なモテ男だったぞ。
不倫がばれて落ちていく俳優は、清廉潔白っぽいからで、逆に悪女的な人って、だから何? くらいであまり叩かれないどころか、あの人は魔性の人だから、とか、それが売りになったりしてたりするからな。
「最近、騒がれないけど、工藤さんはどうなのよ。ひとみさんとつかず離れずみたいじゃない?」
良太が内心グダグダと並べ立てているうちに、するりと白河が工藤に切り込んだ。
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