「だいたい、鬼の工藤が人のこと言えるわけ?」
白河がわざとらしく横目で工藤を見やる。
「俺はほんとのことを言ってるだけだ」
「それこそ、昭和のオヤジは今はやらないわよ? コンプライアンスとかに引っかかったりするんじゃないの?」
良太も気にしていることを白河がまた鋭く工藤に切り込んだ。
「俺にしょぼいコンプライアンスなんかかざしてきたところで跳ね返されるのがおちだ」
フンっと工藤は鼻で笑う。
「そうなんですよね、俺も心配してたんですけど、文書にすれば何万字もの屁理屈を理路整然とべらべらやられた日には、相手が気の毒になるくらいで」
酔っているから、工藤のジロリもどこ吹く風で、良太はそれこそぺらぺらとしゃべる。
「アハハハハ、そういえば工藤さんってT大法科出て司法試験も通ってるって、ほんとだったんだ」
白河は明るく笑う。
「あ、ひょっとして広瀬少年も? 法律詳しそうだし」
白河が工藤から良太に顔を向けた。
「いや、俺の場合所属してたってだけで、何しろ在学中野球しかやってなかったし」
「え、広瀬少年、野球少年だったんだ! ポジションは? あ、わかった、ピッチャーでしょ?」
「すごい、どうしてわかったんです?」
「だって、話が直球で」
とまた白河はけらけら笑う。
笑っているが、決して下品にならないところがすごい、と良太はまじまじと白河を見た。
そこでようやく良太は白河に確認するべき事案を思い出した。
今度は良太が事務所に電話しても対応してもらえるよな、なんて思っていた矢先の、白河の出現だったのだ。
「白河さん、お忙しいと思いますので、こういう席で恐縮ですが今後の日程について少しお話させていただいてもよろしいでしょうか?」
人気俳優の場合、事務所に連絡を入れてもなかなか返事をもらえないなんてことは、いくらでもあるので、この際ここで話しておくしかないと良太は判断した。
「日程? ああ、当分詰まってるみたいよ」
これだ。
軽く、ダメ出しして下さる。
「それは重々承知しているのですが、皆さんのスケジュールをすり合わせて進行せざるを得ないため、少し前倒しで進めていく必要が出てまいりまして、何日でも構いませんので白河さんのご都合がいい時を教えていただければありがたいんですが」
すると白河は心当たりがありそうに笑みを浮かべた。
「フーン、太田美香子でしょ。前倒しとか言ってきたの。あの子、最近調子に乗ってあちこち顔を出してるみたいよね」
勘のよさもベテランならではか、と良太は心の中でうなる。
「できればご要望にお応えしたいところだけど、ほら、一応、私も母親やってるし、旦那のスケジュールもあるから、マネージャーにもそこんとこきっちりスケジュール組んでもらってるのよね」
これはダメかとは思いつつ、「そうですよねえ、お子様のことは第一ですよね」と良太は言った。
だが、白河は、二人とも忙しいときはシッターに預けて動くこともよくあるという情報も耳に入っている。
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