「白河さんのご都合がありますので、いざとなったら別撮りなども考えないではないですが、やはり、白河さんのものを言わずとも周りを圧倒する佇まいっていうのは見ごたえがあると思うんですよね。ご家庭やお子様との時間は取っていただいた上で、できる限り、一日でも半日でも結構です、スケジュールはきっちり合わせますので、ご予定をお知らせいただければありがたいです」
良太はにっこり笑って言った。
なんだよ、ここであんたが一言でも口添えすれば、この人、OKしそうなのに。
だまって徳利をあけている工藤をちらりと睨む。
すると、「あら」と白河は良太をまじまじと見た。
「言い回しは柔らかそうだけど、言ってることは工藤さんと同じごり押しじゃない。ちょっと、広瀬少年、ミニ工藤さん教育でもしてるわけ?」
白河は今度は工藤に突っかかる。
「いや、ミニ工藤って………」
いや、それはやめてくれ、と良太は少し焦る。
ごり押しって。
「一日や二日か三日くらいはどうにかなるだろう」
工藤はぼそりと言った。
「これだから。二日か三日が、そのうち一週間くらいとかになるに決まってるわ」
白河はわかった風に文句を言った。
「お互い都合つけて進めればいい。広瀬は四月から海外研修だから、今の内にきっちりしとかないと、あとがつかえてる」
面倒くさそうに工藤は付け加えてぐい飲みの酒をあける。
「え、海外? せっかくお近づきになったのに。GWのパーティ、来られないの? 工藤さんだけ?」
「パーティ?」
良太は思わず聞き返した。
聞き捨てならないぞ、工藤が行くことになってるって?
「MBCの創立記念パーティ。ほら、今年七〇周年とかで大々的にやるみたい」
言われて良太は、ああ、そういえばと思い出した。
その頃はニューヨークなので、良太のスケジュールには入っていなかったのだ。
白河はMBCの誰々がどうしたとか、女優と結婚した常務がどうしたとか、懐かし気に工藤に話しかけている。
もっと近ければ工藤にしなだれかかっていそうな雰囲気だ。
デキ婚で結婚したものの、夫婦してお互いを束縛しないみたいな関係とかって、白河、全然工藤に秋波送ってるんじゃん。
四月から三か月、俺がいない間に、こんな美女に言い寄られたら、第一、白河とかなり実は親し気なんじゃないかよ。
そういう懸念はいくらでもあったのを、良太はとりあえず仕事に集中しようとしていたのだが、ここにきて俄然、良太を揺るがせる。
白河だけじゃない、もっといろいろ……。
「おい、良太」
工藤の声に、はっと良太は我に返る。
「はい?」
「山根さんや久保田と近々、打ち合わせするぞ」
山根監督も脚本家の久保田も映画化に張り切っていたが、早々に忙しくなる。
「あ、わかりました。早速連絡入れます」
仕事モードに戻ると、良太はすぐに携帯で二人に打ち合わせのメッセージを送った。
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