仕方なく白河を店に連れて行ったが、案の定、表はにこやかそうにしていたが、白河との関係を邪推しているのがありありな目で人を見やがって。
おまけに白河もやけに親密気な態度で、いったい何だっていうんだ。
最後まで意味深な誘いをかけやがるし。
良太はそのまま受け取ったんだろう、拗ねてさっさと自分の部屋に入ったので、工藤としてはそれ以上の言葉もかける暇がなかったのだ。
面倒くさいやつだ、と思いつつバスルームを出た工藤は、ラム酒のボトルを取り出してグラスを用意した。
その時隣へのドアが比較的大きな音でノックされた。
「工藤、起きてる!?」
工藤が顔を上げるなり、スエットの良太が飛び込んできた。
「何だ、騒々しい」
「坂本がシンガポールから戻ったって! 加藤さんから」
湯上りの顔を紅潮させて良太が言った。
「坂本?」
工藤は訝し気に聞き返した。
「だから、アスカさんの記事をでっち上げて逃げてたやつ! 加藤さんが仕掛けた罠にはまったみたいで」
「何をやった?」
「や、何をやったってほどじゃないけど、文化芸能の記事の話を持ち出して、三島の倍は出すから、書いてほしい記事があるって、カマかけたら乗ってきたって」
藤堂から坂本がシンガポールに逃げた話は聞いていたが、それから藤堂の知り合いの知り合いがシンガポールにいて、つてを辿って坂本を見つけ、加藤から提案されたでっち上げ記事の話をつけてもらったという。
「良太、忙しそうだったし、藤堂さんと連携してうまいこと釣り上げた」
加藤は淡々と語った。
いい金になる話とその上飛行機のチケットまで渡され、日本に飛んで帰った坂本は、ゲートを出たところで猫の手の山倉と辻に捕まり、場末っぽいホテルの一室へと親切な扱いで連行された。
そこへ強面でガタイも大きい白石や山之上らがダークスーツにサングラスで何者という雰囲気で現れて暗黙の圧をかける中、山倉が至極丁寧な口調で仕事の説明をするうちさり気に江藤とアスカの不倫記事を書くことになった経緯を坂本の口から引き出した。
「ってわけで、一部始終収めた動画は加藤さんから千雪さん経由で渋谷刑事に渡されて」
「渋谷は捜査一課だろう?」
工藤が口を挟んだ。
「や、渋谷さんから管轄の部署に話が通って、ホテルで参考人として連行されたってことです。証拠固めはこれからですけど」
「フン、三島との繋がりがわかっても、真岡までたどり着けるのか」
工藤は鼻で笑う。
「うーん、そこは警察の腕の見せ所ってことでは」
それができなければ無能呼ばわりしている千雪でなくても、文句を言いたくなるというものだ。
「これで、やっと枕を高くして眠れます。んじゃ、おやすみなさい」
工藤の指が背を向けた良太の襟元を掴む。
「ひえっ! 何すんだよ、息がつまる………」
くるりとまた態勢を変えられた良太はそのまま唇を塞がれる。
苦しくなって工藤の胸を押し戻そうとする良太の手を掴み、工藤は息を継ぐ間もなく尚も口腔を嬲る。
「………っ! 何………だよっ」
やっと離されて、良太は息も絶え絶えに文句を言った。
「キスなんかで、白河さんのこと胡麻化そうったって、そうはいかないからなっ!」
喚き散らしながら良太は工藤を睨みつけた。
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