「真岡弁護士の行方は警察が追ってるんでしょ?」
良太は一応そんなことを言ってみた。
千雪はふうと息をつくと、コーヒーを飲みほした。
「まあ、アホな警察が見つけたらもうけもんや」
千雪は吐き出すように言った。
お互いモヤモヤしか残らないようなやり取りで、千雪も昼になる前に大学に向かった。
「週末、花見、千雪さんも来ますよね?」
「ああ、京助がなんか差し入れ用意するみたいやで」
出がけに良太が声をかけると、千雪は振り返って言った。
午後二時頃には工藤が帰ってきたが、小田弁護士から千雪から聞いたのと同じような話を聞いたと険しい顔で言った。
「三島が依頼人のことには口を噤んでいるらしい」
ディープフェイクを悪用した犯罪であるため、警視庁のサイバー班も動いているようだが、実行犯はそれで法的に裁かれるとしても、真岡弁護士に辿り着くかどうかは所轄次第だが、あとは警察に任せる以外ないだろう。
「不本意だが、この件に関しては加藤らにも幕引きさせろ」
工藤は言った。
今のところアスカへの疑いは晴れたことだけでもよしとして、意識を仕事に向けるしかない。
「あ、俺、パワスポ打ち合わせなんで、行ってまいります」
良太は時間を見て、慌ててオフィスを飛び出した。
工藤とは一言二言ですれ違いなんて感じで日々が過ぎて、すぐ四月になりそうだ。
良太はそんなことを思いながら、車のハンドルを切った。
パワスポでは、良太がニューヨーク在住の間は、特設スポットとして、現地からの沢村情報を広瀬プロデューサー自ら発信することが決まった。
「俺じゃなくて、誰か特派員とかいないんですか?」
抵抗した良太だが、「申し訳ない、予算がない」との殿村の一言で決まりとなった。
「昔、ドラマとか出てたんだろ? 広瀬P、ネットでバズって、視聴率も上がるんじゃね?」
例によってシナリオライターの大山がネチっと揶揄する。
このやろ、俺の黒歴史を!
良太は拳を握りしめて何とか自分を押しとどめ、「わかりました、とにかく六月まで頑張ります」ときっぱり宣言した。
何か、どんどん仕事が増えてないか?
一抹の不安を抱えながらオフィスに戻ると、「良太さん、花見の会の出席者、三十人超えてますけど」と森村が早速報告してきた。
週末の花見の会には、萩のCM撮影からアスカや秋山、それに工藤も戻ってくるので、アスカの命により準備をしておかなくてはならない。
花見の出席者は、いつものメンツだけに声をかけたつもりだが、香坂准教授が京助から話を聞きつけて、加賀医師と来ると言ってきたり、忙しいはずの竹野紗英もひとみから聞いたと言って参加するらしい。
「そうなんだけど、まだ未確認だけど、理香さんとか速水さんも来るらしいし、宇都宮さんも来る気満々で」
昨夜、仕事でどうかなと言っていた宇都宮から良太に連絡が入り、「スケジュールをずらしてもらったから」と嬉々として告げた。
「うちの裏庭でやるいつもの花見なんで、そんなスケジュールをずらしていただくほどのものでは」
という良太に、「何の、最重要案件ってマネージャーにも言ってあるから」という返事が返ってきて、良太は脱力した。
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