夢見月48

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「猫の手の面々にも声をかけたから辻さん加藤さんは決定で、あと三人も時間が空いたら来るって言ってるし」
 良太はごつい顔を思い描きながら言った。
「そうすると四十人とか? それじゃ駐車場の方もスペースあけて、テーブル用意しますか?」
「そうだな。井上にライティングとか手伝ってもらおう」
 たかだか会社の小さな裏庭の花見の会が、ここのところえらいことになっている。
 いや、桜は平造がたまに軽井沢から来て手入れをしてくれているから、年々みごとな枝葉をつけるようになったから、時折ぼんやり見るひとときはほっとするものだが。
 新婚の良太の同級生、かおりと肇も、良太の壮行会だ、とか言ってやってくるらしい。
「お前、壮行会って、たった三か月の研修だぞ」
 久々良太の顔を見て飲みたいだけの二人には、良太の反論も空しくかわされる。
「良太ちゃんを送る会だからね」
 などと藤堂までが言ってうきうきしている。
「向こうで一緒に仕事するんじゃないですか」
「それはそれ」
 と暖簾に腕押しだ。
 ひとみなども、三か月も良太ちゃんの顔を見られないのよ、などと大仰に騒いでいる。
 まあ、そんな風に思ってくれる人がいるのは、ありがたいかな、と良太も思うのだが。
 今年はこ煩い沢村がいないのがちょっと寂しい気もするが、MLBであんな活躍を見せられればもう言うことはない。
 ただし、当の本人は、やったなと送ったメッセージに、わざわざ電話をかけてきて、「佐々木さん、ちゃんと準備してるのか?」などと、ホームランよりそっちが気がかりらしく、情けないグチをたらたら並べ立てた。
 俺のことより、この先おそらく二年ほどは向こうにいるんだよな、佐々木さんと直ちゃん、寂しくなるな。
「なあ、モリーんちって、今、どうなってるわけ?」
 ふと気になったので良太は花見の人数に合わせてケータリングサービスに確認をしていた森村に聞いてみた。
「今は管理をしてくれてる人に頼んでるみたい。お父さんの関係者とか、その人くらいしか紹介されてない」
「あ、珍し、お父さんとか。波多野とか言ってたのに」
 指摘された森村は「日本語で父親のことをどう呼ぶのかって、今一つ釈然としなかったんだ。パパとかオヤジとか言うでしょ? 俺、子供の頃はDadとか呼んでたし」と小首を傾げた。
「へえ」
 あの波多野がと思うと、良太は意外な気がする。
「家はその人に言えばすぐに使えるよ」
「そうなんだ」
「帰るの久々だから、すごく楽しみ」
 森村は日本に来てから初めて帰るらしく、良太の複雑な気分とは打って変わって嬉しそうだ。
 花見に合わせて駐車場へのドアを開放し、二台分ほどのスペースを空けて、テーブルなどを設置することになり、井上に連絡を入れると、土曜の朝から来てくれることになった。
「工藤さんの車は高輪に置いてもらって、ジャガーは近くのパーキングに移動するかな」
 四台分は置けるものの、例年通り客人には駐車スペースがないことを前もって伝えてある。
 それに大概みんなお土産持参で来てくれるから、置き場所も考えなくてはならない。
「受付スペース作りますか」
 森村の提案に、たかが会社の小さな裏庭の花見なんだが、と良太は苦笑いした。
 

 


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