「天野さん、歩いていくんですか?」
「五分だし、タクシーも迷惑でしょ」
そう言って笑う天野も酒は強い。
ひらひらと手を振ると、天野はしっかりした足取りで帰って行った。
「アスカちゃん、お疲れのようだね」
志村の声にふと見ると、アスカは椅子に腰をおろしてうつらうつらしている。
「秋山さん、片付けはやりますから、アスカさんお願いします」
良太に言われてグラスなどを片付けていた秋山は「わかった、片付けは明日にしよう。良太も疲れたでしょ。鈴木さん、モリーも」とみんなの顔を見た。
「ああ、そうしろ」
工藤もそう促した。
「それじゃ、お先に失礼しますね」
「じゃあ、鈴木さん、方向が同じだから」
森村は待っていたソフィと鈴木さんと一緒にタクシーに乗り込んだ。
「我々も帰りますか」
志村と小杉が帰り、アスカを連れて秋山がちょうど最後のタクシーに乗り込むと、急にあたりがシーンと静まり返った。
いつの間にかボトルを集めている良太に、「明日でいいぞ」ともう一度工藤が言った。
アスカだけでなく、良太も明らかに眠そうな顔をしている。
疲れがピークにきているに違いない。
「はあ、これだけ集めておけば、明日、びんペットボトルの日だし」
空き瓶を一か所に集めると、眠気と疲れがどっと押し寄せて良太は一つ大きく息をついた。
「いいから行くぞ」
工藤にせかされて良太はエレベーターまで辿り着いた。
エレベーターに乗り込んだはいいが、途端、工藤はフラッと足元が不如意になった良太の肩を慌てて引き寄せた。
「まだ寝るな」
工藤の声に、良太はへらっと笑った。
けたたましい爆音アラームに、良太は条件反射で起き上がった。
「………………あれ、ベッドじゃん」
カーテンの隙間から朝の光が漏れている。
工藤と一緒にエレベーターに乗ったところまでは覚えているが、その後の記憶がほぼ消滅していた。
着ていたスーツは椅子に引っ掛けてあり、良太はパンツ一丁だ。
どうやら工藤が良太をベッドに押し込んでくれたようだ。
疲労がピークな上に酒を飲んだせいで、意識を失うように眠ってしまったらしい。
「九時ってことは、もう工藤出ちゃったよな」
早朝からMBCで打ち合わせが入っていた。
「大いなる旅人」の札幌ロケ後半が始まるので、工藤は午後からまた札幌ロケに向かうはずだ。
「あーあ、ニューヨーク行きまでカウントダウンだから、できるだけ朝ごはんくらい、一緒にとか思ってたのに、俺ってば」
良太はがっくりと肩を落とし、大きく息をついた。
それでもようやくベッドを降りると、良太はまず猫たちにご飯を用意しながら、「いいか、ちょっと長く留守にするけど、鈴木さんのいうこと、ちゃんと聞くんだぞ」などとナータンとちびすけに言って聞かせる。
それでわかってくれればしめたものだろうが。
留守の間、見守りカメラを取り付けて猫たちのようすを見よう、と思っていた良太だが、ニューヨークで猫たちを見たら、帰りたくなりそうで、結局取り付けるのはやめた。
「工藤、ずっと北海道ロケじゃんね。結局このまま会えないでニューヨーク発つってことか」
渡米まであと五日。
「まあ、今生の別れとかってわけじゃないし」
良太は自分に言い聞かせた。
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