それからの良太は何か吹っ切れたように仕事に打ち込んだ。
凡ミスはなくなったけれども、やはりどこか一本欠けている、そんな雰囲気を周りのみんなは感じていた。
良太がおかしいとアスカに言われ、工藤はちゃんと時間を取ろうと考えていた。
確かにたまに顔を合わせても元気そうにふるまっているという気がしてならない。
どこか具合が悪いのか? それともまさかまた何か借金のことで問題を抱えているのか?
考え出したらきりがなく心配になってくる。
話がある、と改まって言ってきたのは良太の方からだった。
じゃあ、夜、部屋に行く、と答えた。
良太がもしまた金のことで悩んでいるのなら、いくらでも解決してやる。
一人で背負い込むなと言ってやらないと。
そんなことを考えながら良太の部屋を訪ねたのは、ようやく十二時を過ぎてからだった。
「遅くなってすまなかったな。どうした? 何か心配ごとがあるのなら言ってみろ。俺にできることなら何でも言えよ? また入院でもされたら困るからな」
何でまた、そんな優しそうなこと言うんだよー
反則じゃん…
思わず涙が零れそうになり、良太は俯いて唇を噛む。
だけど…言わなけりゃ…
「俺、好きな人ができたんです」
それは、今の工藤にとって予想外の言葉だった。
良太が他の誰かに心を移す可能性などいくらもある若者だということすら忘れる程夢中になっていたらしい。
「工藤さんに、散々世話になっていながら、俺…」
あとは言葉が続かない。
「バカか。俺に世話になっているから、お前が誰かを好きになるななんて、誰が言った? そんなことで悩まなくていい。わかったから、これからは社長と社員だ。まあ、その、何だ、からだだけは大事にしろよ。みんなも心配してるぞ。ちゃんと仕事はしろよ。おやすみ」
バタン、とドアが閉じられる。
いやだーーーーー!
いやだ、行っちゃいやだーーーーーっ!
工藤さんーーーーーー!
そんな叫びも声には出せなかった。
結局、俺のことなんか引き止めてもくれないんだ。
そっかーー、やっぱなあ、その程度の存在なんだ。
一大決心して工藤に告げたのだ。
土方から呼び出しがあったのは夕べだった。
週末、マンションに来いと言われている。
本当は全部ぶちまけてしまいたかった。
だけど、やっぱり工藤にとっては小林千雪の存在が何より重いのだと思い知らされた気がした。
大人な引き際を演じたつもりの工藤には、そんな良太の思いは伝わらなかった。
いい年をして余程舞い上がっていたのだと、工藤は自嘲した。
そんな自分を持て余し、工藤は最近忙しくて立ち寄れなかった前田のバーにフラリと足を向けた。
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