ACT 2
外は屋内で仕事をしているのがもったいないような陽気である。
「良太、いてる?」
オフィスに顔を揃えていたアスカや嘱託カメラマンの井上俊一は珍しい来客を喜んで出迎えた。
「どうしたのぉ? ユキ」
「いや、良太に、坂本教授から預りものがあって、ちょっと寄ってみたんやけど」
「良太、外出中。そろそろ戻るかな。まあまあ、どうぞどうぞ」
井上が愛想よく小林千雪をソファに促す。
「あら、千雪さん、いらっしゃい」
鈴木さんもにこにことお茶を入れるためにキッチンに向かう。
鈴木さんもさすがに工藤のもとで何年も仕事をしているだけあって美形なタレントには慣れているのだが、この千雪のことは、ため息混じりに、きれいな人ねぇ、などと言うことがある。
もちろん、世間で知られている作家の小林千雪はわざと黒縁メガネでカムフラージュしているということも知っているので、滅多なことは口にしない。
だが、なぜそこまでして隠すのか、とはしっかり本人に聞いて、「昔、男に襲われかけて、それがトラウマで」という理由にひどく同情しているようだ。
だが、もう一つのトラウマは女の子に追いかけられ過ぎて怖い、という男が聞いたら目を剥きそうな内容で、鈴木さんには話していないようだ。
千雪には今日メガネがなかった。ここは彼にとっては勝手知ったる場所のひとつなのだ。
「良太が、おかしいて?」
アスカも井上も頷く。
「ここんとこ、ずっとな」
「また、工藤さんが女でも引っかけたんじゃないかと思って、工藤さん怒鳴りつけてみたけど、今度ばかりは身に覚えがないらしくて」
鈴木さんの煎れてくれた紅茶をすすりながら、アスカがきれいな眉を顰める。
ひとしきり良太の話をしていたが、まだ良太が帰る気配がないので、「ほな、良太に渡しといて」と、千雪は坂本から預ってきた資料の入った封筒を置いてオフィスを出た。
千雪には、実はまだほんの少し、良太が自分と工藤のことを誤解しているのではないかという心配もあった。
パリのことでも、思い出してみれば、知らないとはいえ良太に可哀想なことをしたと思う。
良太の工藤への気持ちがひどくいじらしいくて、なんとなく罪悪感を感じてしまうのだ。
講英社の編集者多部と打ち合わせがあり、出先だったのでトレードマークのメガネをかけ、直接出向いた千雪は受付で偶然良太を見かけて声をかけようとした。
ところが、先に良太に近づいた男がいる。
「あれ、あいつ…」
確か主に政界関係の記事を書いているジャーナリストだ。
土方とかいった。辛辣さでは定評がある。
以前多部と一緒にいる時に傍を通りかかった土方を、嫌なヤツ、と言いながら、たまにタレントをこき下ろした記事を書くのも趣味らしく、槍玉に挙げられた人間たちにはかなり恨みをかっているというような話を多部に聞かされた。
いずれにせよ一筋縄ではいかない男だろう。
その男が良太に何の用なんや?
声をかけそびれた千雪は、男に対する良太の目が険しいことが気になった。
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