部屋に戻った良太は、そのままバスルームに飛び込んだ。服を脱ぐこともせず、シャワーのコックをひねる。
ほうっと息をつくと、ボロボロボロっと涙が溢れ、止まらなくなる。
「いやだ…」
良太は小さく呷く。
「いやだ、いやだよ、俺、こんなの………工藤………!」
しゃがみこんだ良太の上にシャワーの湯が勢いよく落ちてくる。
自分がしっかりしなければと、気を張って無我夢中でやっていた頃は、まだ工藤の温かな腕を知らなかった。
優しいぬくもりを知った今、甘えを許してくれる心を知った今、良太は子供のように嗚咽する。
何で、あの人、かぎつけたんだよ、ますます惨めになるだけじゃん。
工藤に話すんだろうか。
ま、話しても話さなくてももうどうでもいいや……。
工藤……
ようやく良太は立ち上がってシャワーを止める。
バスルームの窓には、良太の情けない心をあざ笑うかのように青々と見下ろしている月が浮かんでいた。
良太と別れた千雪は麻布にあるマンションにタクシーで戻っていた。
「何でそないなこと、良太に言うたんや!」
千雪に怒鳴られているのは、傲岸不遜を絵に描いたような男、綾小路京助だ。
一応、千雪の部屋の上の階に自分の部屋があるが、ほぼ、千雪と半同棲状態である。
「工藤のやつに釘を差したのさ。秘書だか運転手だか知らんが、工藤の所業はわかってるだろーが。きさまがホイホイやつの誘いにのらねーようにな!」
怒鳴り返されて千雪はため息をつく。
「あんな…、お前にちゃんと話しとかなかったんも悪かってんけど、工藤さん、去年から良太とつきおうてるんや」
途端、京助はガハハ、と笑う。
「もっとマシな嘘つけよ。工藤が、あのガキと? 冗談もほどほどにしろ」
千雪は笑い飛ばした京助を睨みつける。
「ほんまや。お前がアホなこと言うたために、工藤さん、良太に振られたて、落ち込んではるわ!」
京助は顎に手をかけてしばらく考え込む。
「ガチで?」
「ガチで。アスカさんも井上も良太を心配しとる。青山プロの人たちには公認や」
氷のように冷たくきつい視線に責められ、さすがにまずいことをしたと思ったのか、京助はやおら立ち上がる。
「わかったよ。じゃあ、良太のとこいって謝ればいいんだろ? さっさと行こうじゃねーか」
千雪は待て、と京助を留める。
「どうやらそれだけやないみたいなんや。良太、厄介なことになってるらしい」
京助は千雪の言葉にもう一度座り直した。
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