お前にだけ狂想曲15

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 鈴木さんから渡された差出人のない手紙を封切ると、パソコンで叩かれたメッセージには、土方のサインがあった。
 今度は郵便かよ……
 メールに入っているメッセージを無視していたせいで、手紙をよこしたのだと、良太はムナクソ悪くなる。
 そこには土方の部屋がある同じマンションの一階に入っている喫茶店の名前と日付と時間が記されてあった。
 週末の土曜、午後八時に来いということだろう。
 良太はその手紙を握り潰し、ある決心を固めた。
 どうせ、一度死んだと思えば、自分の命なんて。
 だって、このままあんなやつの言いなりになって、そのうち客取らされて、なんてやっぱり冗談じゃない。
 だが、自殺じゃ生命保険も下りないし、こうなったらあいつを犯人に仕立てて、完全自殺を遂げてやる。
 良太はその日、外出したついでに、工藤を受取人にかけていた生命保険について、もう一度詳しく聞こうと、工藤本人と会社の顧問弁護士である小田の事務所を訪ねた。
「え、解約って、どういうことですか?」
 いきなりあの生命保険は解約された、と聞かされて良太は驚いた。
「悪いな。工藤にそんなもの解約しろと怒鳴り込まれて、月々の支払いは銀行に君の口座を作って預金してある」
「う…そ…」
 そんな……
 何でそんな余計なことすんだよ、工藤さん!
 思い掛けないところで工藤の心に触れて、良太はその場で泣きたくなる。
 しかし解約されているものはもうどうしようもない。
 肩を落として、小田の事務所を出る。
 でも、親父を受取人にした三千万の保険の方は有効だろう。
 親父ならわかってくれる。
 俺が死んだら、きっと工藤に渡してくれるだろう。
 だってもう俺にはそれしか道、ないじゃん。
 もういやなんだ。
 あのヤローにやられながら工藤さんの傍にいるなんて。
 死ぬなんていやだけど、仕方ねーよなー
 俺の人生って短かったなー
 でも、工藤さんに会えただけでもう十分だ。
 俺、もう思い残すことはないよ。
 あ、でも、ナータン!
 きっと亜弓のやつが面倒見てくれるよな…
 良太は悲壮な覚悟を決めて、その晩、週末の完全自殺計画を練った。
 
  
 

 
 
 閑静な住宅街の喫茶店だが、土曜の夜だからか、わりと席は埋まっている。
 良太が土方の住むマンション一階にある喫茶店店に入って十分程待つと、ようやく土方が現れた。
「お前から呼び出しなんて、珍しいな」
「何言ってんだよ! それより、早くしろよ」
 良太は、考えた挙げ句の完全自殺計画のことばかり考えていて、土方の顔をろくに見ようともしない。
「まあ、待て。で? お前の考えとやらを聞かせてもらおうか」
 土方はコーヒーを注文し、良太に向き直る。

 


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