キスを落とせばおずおずと応えてくる。女の柔らかい身体とは全く異質なのに、抱きごこちが何となくしっくりくる。
「え、ちょ……、工藤さんって」
押し倒そうとすると、良太がやっと覚醒したらしい。腕をつっぱって、「明日はまた東京にとんぼ返りなんですよ」と俄かに抵抗する。
「誘ってんじゃないのか?」
工藤はにやにやとつっぱっている良太の腕をはずす。
「何ゆってんです」
それでももう、良太の顔は真っ赤だ。
「来週まで俺はまた九州だぞ?」
ずるい。
そうやって俺のこと手玉に取りやがって!
良太はやっぱり自分ばかり好きなのだと思う。だから、そんなふうに言われると何も言い返せないじゃないか。
恋なら、もっと大人な関係になりたいと思うのだが、ちっともロマンチックでもなければ、対等でもない。
工藤には勝てたためしがない。
「あ………んん…」
甘い声も出てしまう。
ここのところずっと忙しくて、半月くらい触れてもいなかったせいか、心でつっぱっても、身体はとっくに工藤に柔順になっている。
恥ずかしげもなく嬌態をさらして食われてしまった。
快晴の空は夏の兆しが見え隠れしていた。
風は心地よく傍らを抜け、ぽっかりあちこちに浮かんだ雲はマグリットの世界にワープしたかのようだ。
「よろしくお願いします」
良太は編集部の面々に頭を下げ、周りの女の子にはさりげににっこり笑って挨拶した。
今日は、青山プロダクション所属俳優の中川アスカやお笑いタレントの森山ゴーらが、ここ講英社の十八階にある書籍の編集部を訪ねて、最近のベストセラーを紹介するという、KTV系列の番組「何が何でもらんきんぐー」の収録である。
一緒に行って編集長に挨拶して来いという工藤の命により、良太も撮影クルーに混じってやって来ていた。
かなりなキャリア組から可愛い系まで編集部の女の子たちが、タレントはもとよりカメラマンやテレビ関係者の集団を遠巻きに見ている。
「うっそー、やっぱきれー! 中川アスカ」
「でも、随分やりたい放題だってゆーじゃない?」
そんなヒソヒソ声も聞こえるが、それも人気俳優の証というものだろう。
脂ののりきった人気芸人森山は、ここかしこでよく回る口を披露している。
アスカは「あたしはこれがお薦め」と、とある作家が紆余曲折の自分の人生を綴ったハードカバーを紹介した後、今度は発売されたばかりの自分の写真集もしっかり宣伝する。
収録が終わると、良太は編集長に丁寧に挨拶し、アスカやマネージャーの秋山たちとエレベーターホールに移動した。
カメラマン組と別れ、良太はタレント組一行と下りのエレベーターに乗る。エレベーターはそのまま駐車場のある地下に向かう。
六階でエレベーターが開き、結構一杯なのに、一人の男が乗ってきた。
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