やっかいごとは早く片付けた方がいいだろう、と翌日の夜、良太は指定された場所に出かけていった。
「土方建造…さん? フリーライター…ですか」
名刺を出されたので自分もバカ正直に名刺を渡す。
「広瀬良太、ね。どっかで見たと思ってたんだ。青山プロか。お前、新宿のあの店でウリ、やってたろう?」
「え………」
肘をついてタバコをくわえ、コーヒーカップをわしづかみにして口に持って行く男を、良太はじっと見つめた。
渋谷のやけに明るい広々とした喫茶店である。うるさいくらいのBGMが流れているお陰で、周りに聞き取られることはないだろう。
だがよもや自分のことで呼び出されたとは、さらにここにきて、こんな形であの頃のことを持ち出されるとは思ってもいなかった。
「いろいろ調べさせてもらったよ。去年の暮れにえらい目にあったって? ちょうどその頃、俺、海外にいたから知らなかったんだが」
男のメガネには薄く色がついていて、その表情は窺い知れない。
「最近、業界でも随分活躍してるじゃないか。プロデューサーさま」
スポーツ刈りに精悍で野性的なマスク、まだ夏にはちょっと間がありそうだが、Tシャツにジーンズのベスト、ジーパンにごついナイキのバッシュ。
大柄でがっちりした体躯の土方は、ライターというより、スポーツマンといった方がふさわしいかも知れない。
「借金を工藤に肩代わりしてもらったって? それでやつの身代わりに刺されたのか? いくらなんでもたかが三千万じゃ、割に合わないだろう」
そんなことまで。
きついマルボロの煙に、良太は目をすがめる。
「要点をはっきりと言ってくれませんか? こちらも時間がないので。言っておきますが、金を借りてるから工藤さんの身代わりに刺されたわけではないし、新宿の店のことは俺のプライベートなことで、工藤さんや会社には何の関係もありませんから」
きっぱりと言い切った良太を、男はくっくっと笑って、煙草を灰皿に落とす。
「威勢がいいな。まあ、去年の暮れの件ではお前は被害者で、世間の目も同情に走ったが、その可愛い良太ちゃんがウリやってたなんてことになったらどうかな」
土方は思わせぶりに携帯をいじって見せる。
「だから、何が目的なんです? でも、金なんかありませんよ。今あんたが言った通り、工藤さんに借金している身なんですから」
土方はまた笑った。
「だったら、また稼いでくれればいいだろう。ジジィどもに受けそうな面してるじゃないか。ああ、でも、スポーツ少年だったんだよな。結構、SMなんかでもいけるんじゃねーの?」
ギョワー、ゾワー!
男の話を聞いているだけで血の気が引き、背中に怖気が走る。
やっぱり、きっぱり、昨日までの幸せは仮初めってやつ?
俺ってこういう運命だったわけ?
そんで俺、こいつに貢いで、果てはヤク中かなんかにされて、どっかのガード下でのたれ死ぬわけ?
ゲロゲローーーーーっつ!
うーーーっ! 工藤さーん、俺どうしたらいいんですかーーーっ!
広瀬良太、人生最大の危機。
けど、そうだ、工藤さんに迷惑をかけるわけにはいかないんだ。もちろん、会社にだって。
ガタン、と良太は立ち上がる。
「やればいんだろ? やれば! 俺も男だ、SMだろうが何だろうが、今夜でもいいぜ、ちゃっちゃとしてくれ! 明日も仕事があるんだ」
少しの間、土方は何も言わずに良太を見ていたが、おもむろに立ち上がり、キャッシャーに向かった。
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