Vacances1

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  ACT 1
 
 
 
 滑らかなステアリングで大型のメルセデスベンツが駐車場に滑り込むと、やがて大柄な男が後部座席から降り立った。
 ライトブルーのシャツにきちんと結ばれたタイ、Vゾーンも涼しげに、例年にない暑さもものともせずスーツを一部の隙もなくビシと着こなした男に、建物の裏口にあたる場所に立つ警備員が、「お疲れ様です」と声をかける。
 硬派なハリウッド俳優ばりの容姿ながら、鋭い視線や一九〇近い長身からただ者ではない威圧感さえ窺えるその男は、「お疲れ様です」と年配の警備員にはそれなりの敬意を以って返している。
 男は乃木坂にあるここ青山プロダクションの社長で工藤高広という。
 広域暴力団中山組の組長の甥であるという特殊事情がどうしてもついてまわり、世の中には彼を胡散臭い目で見る者も多いが、事実上絶縁している組との後ろめたい関わりは一切ない。
 テレビ番組や映画の企画制作、プロデュース及びタレントの育成とプロモーションを主な業務としているこの会社は、現在数人のタレントを抱え、弱小ながら業績は右肩上がりで、社長の工藤は、かつてキー局であるMBCテレビ時代からその胡散臭さを吹き飛ばして余りある敏腕プロデューサーとしてその名を馳せている。
「…っちー」
 運転席から降りた途端、もわっとした熱気に包まれ、トランクからノートパソコンが入ったハンドキャリーをあたふたと出しているのは、工藤の秘書兼運転手でもある広瀬良太だ。
 イタリア出張から帰った工藤を空港へ迎えにいった帰りである。
 ひょろりとした痩身だが、こう見えても長年野球で鍛えてきたはず…なのだが。
 ちょっと最近それなりにスーツも板についてきて、なかなか可愛いマスクが乗っかっている。
 最近ではプロデューサーの卵も経験したりと忙しい。
 車をロックしている良太からスーツケースを取り上げて、工藤はさっさとエレベーターに向かう。
 この暑さの中いかにも颯爽と動く工藤の姿に、良太はついつい感心してしまうのだ。
 だが、降りてきたエレベーターに工藤の後ろから乗り込んだ良太は、これから落とされるであろう雷が予想されてひとりため息を吐いた。
 
 
 

「何だ、これは!」
 バサリ、と手にしていた雑誌をテーブルに放り投げ、地鳴りのような深い怒りを含んだ声がオフィスに響く。
「はあ、まったくのでっち上げって感じですよね~」
 思わず一歩後ろに下がってみた良太は、もはや怖いもの見たさの心境で工藤を恐る恐る見上げて言葉を紡いだ。
「…感じ、だぁ? ふざけるな! でっち上げそのものだろうが!」
「はあ、そうですよね~」
 さらなる雷をまともに受けた良太は一瞬首を竦めながらも苦笑いを返す。
 ったく、帰る早々元気なオヤジだぜ…

 


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