弁護士のタマゴ一人と司法書士一人を抱え、半蔵門に事務所を構えている小田は、現東京地裁の敏腕検事荒木志郎や工藤とは大学の同期で、大学卒業の年には司法試験に三人競って合格したという、在学当時から一筋ならでは行かないツワモノ三羽烏の一人だ。
寄ると触るとお互いの角をつき合わせているかのようだが、互いの信頼だけは揺るぎないものが根底にあるらしいと、良太もわかり始めたところだ。
眉を顰め、そのままものも言わず立ち上がった工藤がオフィスを出て行く。
良太は工藤が消えたドアにしばし目を置いたまま、ちぇ、と小さく口にした。
迎えにいった空港から会社まで、例によって工藤は携帯でのやり取りに終始し、良太と個人的な会話などひとこともない。
いくら仕事だってもなぁ。
やっぱ、「ツッタサカナニエサハヤラナイ」だよなぁ。
良太は心の中でぼやいた。
工藤は不機嫌な顔もあらわにオフィスを出て、エレベーターで六階に上がった。
このフロアーは応接室続きの社長室になっている。
良太がまた余計なことに頭を悩ませないようにと、わざわざここまでやってきたのだ。
空港で良太の顔を見てほっとしたのもつかの間、代理店プラグインから携帯に入ってきたのは、今進めているドラマと同時進行しているCMのキャストの件でトラブっているという話だ。
日本を代表する大企業の一つ鴻池産業の傘下にある鴻池物産からイタリアンコーヒーブランドの商品「カフェラッテ」のCM制作の話が、数カ月前鴻池物産の宣伝部からプラグインに持ち込まれた。
ここのところ、青山プロダクション関係の仕事でも忙しくしているプラグインとしては大きな仕事である。
プラグインの河崎や藤堂らの古巣である英報堂、日本広告社との三社でコンペとなったが、プラグインのプレゼンが通った、というわけだ。
タレントやロケの日程も決まり、背景となるリヴィエラやローマでは既に撮影が始まっていて、後は俳優のアスカや尾崎貴司の撮影を残すのみというところだった。
そこへ尾崎貴司が膝を怪我して、出演を見送りたいと彼のプロダクションから言ってきたのだという。
鴻池物産がスポンサーとなって、来年早々放映予定になっているドラマも、アスカ主演でもう動き始めているし、尾崎はドラマにも脇で出演することになっていた。
部屋に入るなり、工藤はプラグインの河崎の携帯を呼び出した。
「ああ、どうだ? 長田プロの方は。どの程度の怪我なんだ」
尾崎貴司の所属するのが長田プロだった。
ここ一連のでっち上げ記事の出所が長田プロかもしれないことを考えると、何やら胡散臭いものを背後に感じないではない。
週末からロケの予定になっているのに、こんなところで尾崎に降りられると、何もかもが狂ってくる。
ただの嫌がらせではすまなくなる。
「とにかく、何とか引きずってでも尾崎を連れて行くんだな」
プラグインも必死だろう。
プラグインだけでない、工藤の側としても損失は大きいし、クライアントを怒らせれば、また面倒なことになりかねない。
だが、それよりも気になるのは、良太だ。
小田に調査を依頼した、くらいならまだいい。
また余計なことに首を突っ込んで、突っ走らなければいいが、という危惧が、工藤の頭の中を去来する。
全く、あのガキときたひには…
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