「イっちゃってるよー、良太~」
バッチーンと背中を叩かれて、良太は「ってぇよ~~、アスカさ~ん」と振り返る。
「ドア見つめて、セツナげな顔しちゃってさ~、かーわい~ったら」
「せ…つなげになんかなってないよっ!」
アスカに追い討ちをかけられて、良太は顔をカーっと赤くしながら自分のデスクに戻り、そそくさとTV局に打ち合わせの確認の電話を入れる。
…くしょお、可愛いなんてアスカさんに言われる筋合いはないぜ。
みんながクスクス笑っている。
出かけるとは言っていないから、工藤はきっと上にいるんだろう。
空港から戻る車の中でも、工藤はほとんど携帯で話していたのだが、何だかちょっと揉めてるみたいだったし、仕事だから仕方がないとはいえ、工藤不在の一週間、帰りを待ちわびていた良太にしてみたら面白くはない。
なーんだよ、あの態度。
コイビトだったらもうちょっと何かあっていいじゃんかよー。
良太は心の中でぶつくさ文句を言う。
そう、一応、良太と工藤は社長と秘書というだけでなく、プライベートでは紆余曲折ありながらも社内公認の「恋人たち」になって半年とちょっと。まだほやほやの湯気が消えてないはずなのだが。
見た目きっちしガイジンのくせに、中身はてんでジャパニーズなんだからな、あのオヤジはよー。
一週間ぶりの熱い抱擁にウチュ~なんてのを望んでいるつもりはないが、何がしかの言葉をかけてくれてもバチはあたらないだろう。
まあ、実際、俺と工藤は恋人、なんてもんじゃないんだよな。
フン、と良太は自嘲する。
とはいえ今回のでっちあげの記事にあるように、工藤がアスカや奈々と云々なんてバカバカしくてお話にもならない。
事実だとしたら、良太だってこんなに平常心ではいられないが、自分にはアスカらを妬いたりする資格はないのかも…と、良太の心の中に疼くものもある。
大体、春の事件であんなバカなことをした自分に、やっぱり工藤は愛想がつきたのじゃなかろうか、と常に前向きな良太のはずが工藤に関してはどうしてもネガティブ思考に走りがちだ。
そこへ、奈々のマネージャーである谷川が、青山プロダクションの嘱託カメラマンである井上俊一を伴って戻ってきた。谷川は難しい顔をしている。
「お帰りなさい」
奈々が親鳥を待っていた雛のように嬉しそうにいそいそと谷川を出迎える。
「セッコイやつらだぜ~」
開口一番、井上が汗をTシャツの裾でぬぐう。
「特にあの長田ってやろー」
「やっぱり長田だったの? あのアホな記事」
みんなの視線が井上に向けられる。
「もとっから、工藤のこと目の敵にしてやがるじゃねーかよ」
「何か証拠でも掴んだのかよ?」
受話器を置いて良太は訊ねる。
「…ってか、あのおっさんくらいしかいねーだろ? あんなダッセー手使うの」
井上は語気も荒く断言した。
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