「どうぞ」
キッチンから出てきた鈴木さんがコーヒーを谷川と井上に渡す。
「うお、ありがて~。今日は一段と美人だね~鈴木さん」
「魚武さんみたいなこと言わなくてもいいの」
ソファに腰をおろした井上はコーヒーをすする。
「…魚武って誰よ?」
「らしいってだけじゃ、ぶちこめねーんだよ」
井上の呟きなど無視し、いかにも元刑事ですといったこわもてをさらに怖くして、奈々の傍に立ったまま谷川が呻くように口にする。
谷川も奈々を巻き込んだ騒動に腹を立てて、時間を見つけてひとり調べまわっていた。
オフィスにきて、泣いている奈々に出くわしてしまった井上も、情報を引き出そうとあちこち業界仲間に尋ねてみたのだが、長田プロが臭いというだけで、断言するには今ひとつ決定的な証拠に欠けるのだ。
「そういや、良太、工藤、帰ってきたんじゃねーの?」
「いるわよ、上に」
井上の問いに良太より先にアスカが答える。
「あーもー何か、うざいっ! 井上、飲み行こうよ。良太も、オヤジなんかほっといていーから」
もう六時を回っている。
外が明るいから時間の流れを失念していた。
画面でメールチェックをしながら、「う~ん…」と良太は煮え切らない返事をする。
「奈々、あんたは何も悪いことしてないんだから、もーめそめそしてないで、もっと毅然としてなさい!」
「は…い」
「お前がそーやって、奈々にきついこというから、あんなこと書かれんじゃねーの?」
アスカのありがたい助言に奈々が力なく頷くのを見て、井上が茶々を入れる。
「うるさいわね」
「ほどほどにしとかないと、明日ドラマのロケってわかってる? アスカさん」
秋山がすかさず釘を刺した。
「だって夕方からじゃない」
とりあえず今日の工藤のスケジュールは何も入っていない。
今日は高輪に戻るつもりなのだろう。
良太はパソコンの画面を睨み付けている。
無論、女の子とつきあった数少ない経験と比べても意味はないかもしれないが、時間を合わせてデートする、とか、長電話でおしゃべりする、とか、良太と工藤はそんな関係では全然ない。
忙しい工藤のスケジュールの合間を縫ってほんのたまに夜を一緒に過ごすくらい。
時々自分の都合のいいように人のことかまうだけだし……
俺がそれを喜んじゃうってことわかってるもんだからさ……
けど別に俺は、男が好きとかってわけじゃなくて、工藤だから…。
良太は心の中で断言する。
だから、時々は甘いこと言ってくれるから、ついつい嬉しくなっちゃうんだけど。
そんな甘言にのせられて、俺なんかてんでうまく操られちゃってんの。
あ~あ、そんなオヤジが好きなんだからしょうがないけど。
「あの人」らのお陰で、土方が俺のことを記事にしなかったのは感謝しているけれど。
亡くなった恋人はとりあえず置いといても、問題は「あの人」だよな。
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