夏休み15

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   ACT 3
 
 
 指定されたのは、いつか閉じ込められたあの屋敷だった。
「久しぶりに良太ちゃんからのお誘いに意気揚揚ときてみたら、そんな話か」
 鴻池は深深とアームチェアに腰を降ろし、酒を飲んでいる。
「まあ、突っ立ってないで座ったら?」
「俺は、千雪さんにもう近づかないで欲しいって言いにきたんです」
「なるほど。じゃあ、その見返りは? 君が彼の代わりに僕に抱かれてくれるってわけ?」
 相変わらずのらりくらりとした口調に、良太はカッとなるのを極力抑えながら口を開く。
「俺に興味なんかないくせに、くだらない冗談はやめてください」
「そんなことはないよ。あの工藤を手玉に取っている良太ちゃんだからね、興味は充分ある」
 もう、爆発しそうだった。
「言っとくけど、あんた、千雪さんに手なんか出してみろ、それこそ工藤にもう二度と振り向いてなんかもらえないからな! 千雪さんは、工藤が命に代えてもって一番大切にしている人なんだ。下手したらあんたなんか殺されるぜ! 言いたいことはこれだけだ」
 ドキドキがおさまらない。
「いいか、よく、覚えとけよ!」
 捨て台詞を残して、屋敷を出た時は、息も絶え絶えというところだった。
 とにかく、勝手に借りてきたジャガーに飛び乗って、オフィスへと突っ走った。
 どこをどう走ったかも覚えていない。
 つかまらなかったのが不思議なくらい飛ばした。
 オフィスの駐車場に戻ってきた良太は、やっと大きく息をついた。
 ほっとしたら知らず涙がポロリと零れ落ちた。
 藤堂に、鴻池に言った言葉。
『千雪さんは工藤の一番大切な人なんだ』
 よくわかっていたつもりだが、いざ口にしてみると切ない。
 一番、大事な………
 涙が止まらない。
 自分で鴻池のところに談判に行ったのは、千雪のためなんかじゃない。
 その事実を工藤から突きつけられるのが嫌だったからだ。
 もし、鴻池が千雪さんに何かしたりしたら、何をおいてもきっと工藤は飛んでいくだろうから。
 その時、工藤が確信するだろう事実が嫌だ。
 仕方ない。
 俺はセミだ。
 たった一週間でも懸命に生きる、セミだ。
 どんな結果が待っていようとも、今は、自分にできる限りのことをするだけだ。

 


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