ちょうど不景気が日本中をどんより覆っているような年だったからか、面接に四人の学生がやってきて、三人はそれなりに体力も知力もありそうなメンツだったが、一人、痩せてリクルートスーツが浮いているような場違いなのが混じっていた。
しかし案の定、工藤が中山会組長の甥云々と口にすると四人とも腰を浮かしたので、根性のないやつらだ、と怒鳴りつけようとしたところが、何と一番脈のなさそうな痩せっぽちなガキが一人、浮かせた腰をまた下ろしたのだ。
こんなひょろっとしたガキが、自分のもとで続くとは工藤には思えなかった。
どうせそのうち音を上げて、逃げ去るのが関の山だと思ったものの、とにかく人手不足だった。
とりあえずやらせてようすを見るかくらいなものだった。
それがどっこい、業界では鬼と呼ばれて久しい工藤が怒鳴りつけようがあれをしろこれをしろとパシリをさせようが、なかなかどうしてへこたれず打たれ強かった。
どころか生意気にくってかかる、文句を言う、何より鈴木さんと仲良く昼飯を食い、笑うのだ。
鈴木さんだけではない、業者、局関係者の間でもいつの間にか言葉を交わし、可愛がられている。
良太を面白いやつ、と思ったのはその頃だ。
ダークな世界に生きてきた自分とはまるで違う世界に生きていただろう良太とが、接点を持つこと自体、何かの間違いだったのかもしれないが。
目が離せなくなった。
良太が妙なバイトを始めたと思ったら、ぼこぼこにされて会社の前に倒れ込んでいたりしたので、鈴木さんに事情を聞いたところ親の負債のせいだとわかり、アパートに胡散臭い債権者が取り立てにやってきているらしいと知った工藤は、良太のアパートの張り紙から闇金業者を突き止め、事務所に乗り込んだ。
工藤が現れると、ドカッとデスクに座る社長らしき男を囲んでいた連中が色めき立った。
「これはまた、今日はどういうご用件で? 工藤さん」
何だって俺の名前を知ってるんだなどと聞くべくもない。
「三千万だ。広瀬の借用書を渡してもらおう」
スーツケースにキャッシュで持ち込んだ金をデスクにおいて工藤は言った。
「金輪際、広瀬良太の三メートル以内に近づかないと文言を書け」
工藤は借用書に誓約文を書かせ、拇印を押させると借用書を奪うように取り上げて踵を返した。
「しかし、あのほそっこいガキに三千万とは、ひょっとしてタレントかなんかで売り出すんですかい?」
背中でそんな科白を聞いた工藤は、「うちは万年人手不足で、せっかく入った社員は貴重なんだ」と言い残して事務所を去った。
良太が入院しているうちにアパートを引き払い、会社の上にある今の部屋に家財道具一式と猫一匹を移動させた。
退院して猫にすりすりしている良太には、三千万はこれから給料から引くからと言ったら一応納得した。
だがこの俺が誰かのために三千万をポンと出すとか、いくら人手不足で大事な社員とか言ったところで、あり得ないだろう。
あっけらかんと猫とじゃれている良太を見ながら、工藤は自分に突っ込みを入れた。
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