鬼の夏休み7

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 ここのところ、外に出ることが多く、良太にしてはちゃんとした食事を取っていなかった。
 といっても夜十時頃に部屋に戻ってからの、コンビニ弁当が比較的まともな食事だが、時間がなくて出先でファストフードで済ませたりしていた。
 ちょうど明日あたりから少し楽になると思っていた矢先の軽井沢である。
 工藤がスプマンテを頼み、良太はブルスケッタを齧りながらスプマンテをゴクゴクと飲んだ。
 続いて出てきたカルパッチョを食べ終えると、牛フィレ肉と一緒に出てきたルッコラのサラダも「これ、うまいっすね」などと言いながら、パクパクと平らげた。
「それだけガッツリ食えば、シェフも作りがいがあるだろうさ」
 健啖ぶりを発揮している向かいで、次はキャンティを開けてもらい、オマール海老をつついている工藤は言った。
「工藤さんはもっときっちり食べた方がいいんじゃないすか? 食事は大事です」
 苦笑を漏らしながら工藤はワインを手酌で継ぎ足した。
「平さん、人間ドックですって?」
 吉川がやってきて声をかけた。
「ああ。年一回はかかった方がいいだろう、年も年だしな」
 工藤さんもじゃないですか、と口にしそうになった良太だが、危うく言うのをやめた。
「それ、工藤さんもじゃないですか?」
 良太が言い損ねたセリフを吉川がするりと言った。
「平さんが、心配してましたよ? 社長はいくら何でも働き過ぎだって」
 吉川に乗じて良太も「そうですよ、いい年なんだから」と大きく頷いた。
「うるさいな、俺は検診とか嫌いなんだ」
 しれっと工藤はそんなことを言う。
「またそういうことを。社長が倒れでもしたら、会社どうすんです?」
「そしたら、俺の代わりにお前がやればいいさ」
 それを聞くと思わず、良太は声を上げた。
「冗談も休み休み言えよな!」
 怒りと哀しさで良太は目頭が熱くなるのを感じた。
 何言ってるんだ、このオヤジは!
 勝手なことばっか言って!
 あんたが倒れたりしたら、俺なんか立ってらんないんだよ!
 ばっきゃろ!
 店内だということを辛うじて思い出した良太は、怒鳴りつけたいことをぐっと飲みこんだ。
「ったく、可愛い部下にこれ以上心配させないでくださいよ」
 吉川は笑いながら、二人の前にフルーツシャーベットを置いた。
 良太は情けない顔をしたまま、シャーベットをすくって口に運ぶ。
 工藤はシャーベットを一口口にしただけで、良太の方へ押しやった。
 上目遣いにちょっと睨みつけたものの、結局良太はシャーベット二人分を食べてしまった。
 何だかだ言いながら、俺って貧乏性っつうか、食い意地張ってるっつうか。
 エスプレッソの苦みを味わいながら、良太はふと、母親の言葉を思い出した。
「お腹いっぱいご飯が食べられることを、感謝しなくちゃだめよ、良太」
 母親はクリスチャンでも何でもないが、その言葉は耳にタコで、今やっと頷ける気がした。
 それにしても、付き合いが長くなると、随分大人に思えていた工藤の中にある子供っぽさがたまに垣間見えるようになった。


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