いつかそんな夜が明けても14

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「他に何か用でも?」
 加賀は面倒くさそうに聞いた。
「以前、工藤さん、やっぱりヤクザに刺されてここに来たって」
「ああ、そんなこともあったかな」
 良太の質問の答えを加賀は適当にごまかした。
「あの時、言ったじゃないですか、先生!」
「忘れたな。んなこた、工藤に聞きゃいいだろ?」
 言われて良太は言葉に詰まる。
 フン、と加賀は笑う。
「聞いたぜ。お前、工藤の身代わりになって刺されたことがあるって?」
「何で、そんなこと、誰に聞いたんだよ!」
「いや、そんな無鉄砲されちゃ工藤も下手なことはいえないだろう」
「俺はただ! 工藤さんを護りたいだけだ! なのに、俺には何も言ってくれない。千雪さんには言うくせに!」
 良太はカッとなって声を荒げた。
 加賀はまた笑った。
「バーカ、そりゃ、お前、工藤にしてみりゃ、お前を護りたけりゃ、必要以上のことは言わないに決まってるだろ」
 良太は唇を噛む。
「お前な、気負うのはいいが、お前が工藤のためにすることは、仕事に没頭することくらいだ。しばらくはな」
 加賀はそう言うと、「わかったら、帰った帰った。俺はまた飲み直すんだ」と良太を医院から追い出した。
「ちぇ…」
 あの医者も何か知っていそうだったが、あれ以上口を割らないだろうと思われた。
 何か釈然としないまま、ジャガーのハンドルを切る。
 ライトに照らされる冬枯れの木立が寒々しい。
 春の声が聞こえるのはまだ先のようだ。
「お前が工藤のためにすることは、仕事に没頭することくらいだ」
 加賀の言葉が良太に重くのしかかる。
 そりゃ、工藤の身代わりになって刺されたことは、逆に工藤にメチャ迷惑かけることになったさ。
 それじゃ、まるで俺は何にもならないデクノボウみたいじゃんかよ!
 もう、あの時の俺とは違うのに。
「クッソ! ばかやろぉ!」
 良太は車の中で叫んだ。
 
 
 
 
 銀座のとある古いバーのカウンターに二人の男がとまっている。
 大柄な男はラム酒をなめている。
 もう一人は幾分銀縁眼鏡のせいでシャープな印象を与えるが、着こなしからして優雅なスーツの下はきっちり筋肉がついているようだ。
「で、ご用件と言うのは?」
 抑揚のない物言いで銀縁が言った。
「どうなんだ? いい加減終息したんじゃないのか?」
「ふ………、せっかちな方ですね。もう少し、カムフラージュしようとか思わないんですか?」
「悪かったな、俺は回りくどいやり方は好かないんだ」
 大柄が言うと、銀縁がまたくくっと笑う。
「まあ、それでも藤本さんには気に入られているんですから、あなたはすごいですよ、工藤さん。みんなあの人に気に入られようと、あの手この手で策を弄しているっていうのに」
 その時、工藤の携帯が軽やかなメロディを奏でた。
 携帯を開けると、相手は山内ひとみで、工藤とは悪友関係続けている大物俳優だ。
 工藤は切っておけばよかったと思いつつ、止まり木を離れて、電話を受ける。
「何だと?」
 思わず工藤は声を上げる。
「……わかった。すぐ行く」
 携帯を切ると、工藤は「タイムリミットだ」と波多野に告げる。
「ふ……そんなに良太に会いたいですか?」
 工藤はそれには答えず、バーを後にする。
 タクシーを拾い、麻布を告げる。
「さっき、久々スタジオで良太ちゃんと会って、何だか異様にやつれてるみたいだったから、飲みに誘ったのよ。そしたら工藤のバカヤロ、工藤のバカヤロって、かぱかぱ飲んじゃって、良太ちゃん」
 ひとみもろれつが回らなくなっているから、かなり飲んだはずだ。
「あんたにはもう俺は必要ないんだって、泣くし、こないんなら、あたしがもらっちゃうわよお」
 ケラケラと笑うひとみの声が耳について離れない。
 工藤はいてもたってもいられず、タクシーを飛ばした。

 


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