嘉月12(ラスト)

back  top  Novels


 猫たちの歓迎を受けながら、ご飯やトイレの世話をし、風呂に入って良太は一息ついた。
 あ、そういやせっかくもらったカフス、いつ使おう。
 珍しく工藤がクリスマスにくれたのだ。
 初釜にはあんまりアクセとかつけらんないし、年末に電話で礼を言っただけだっけ。
 つらつら考えながら風呂から上がった良太は、ポカリを開けてゴクゴクと飲み干した。
 と携帯が鳴った。
 ワルキューレだから工藤である。
「あの程度の酒じゃ、足りない。ラム酒開けるから付き合え」
 何ごとかと思えば。
「え、お疲れだから寝るんじゃなかったのかよ」
 とはブツクサ口にしてみたものの、良太はバスタオルを取ってジャージの上下を着ると、工藤の部屋のドアを叩く。
「開いてるぞ」
 言われてドアを開けた良太は、「鍵くらい閉めろよ。物騒だろ」と文句を言った。
「警備員さんもいるし、カメラもこないだ加藤があちこち設置してっただろうが」
「ま、そうですけど」
 バスローブでソファに寛いでいた工藤はバカルディを開けると、二つのグラスに注ぐ。
 良太は向かいに座り、グラスを取った。
「そうだ、匠さんからチケット送るって。観に行ける日あります?」
 忘れないうちにと匠から言付かった謡い初めの公演のことを工藤に尋ねた。
「俺はわからないな。お前はどこかで行った方がいいぞ」
「はあ」
 やっぱり。
 工藤は無理かもとは思ったが、誰を誘えばいいんだろう。
 ホンモノの能を観るのも仕事のうちだろうが。
 能にビバルディにカミーユクローデル、芸術に勤しみ始めて数カ月。
 多少はわかってきたつもりだが、やはりホンモノを見なければわからないことは多いのかも知れない。
「藤堂さんとこのアーティストの皆さんの作品展もみないとですし」
 それもあった。
 プラグインの上に入っているギャラリー『銀河』がバックアップしている東京美大の卒業生の三人展だ。
「フン、しっかり見とけよ」
「また、人のことバカにして」
「ちゃんと見ておけって言ってるだけだろう」
 以前ミラノのサンタマリアデレグラツィエ教会で、ダヴィンチの壁画を見た時、「教科書と同じだ」なんてポロっと口にして、良太は周囲の日本人に笑われた。
 いくら俺でも、今は違うんだからな。
 少なくとも悠くんの絵は、何が描いてあるかわかる絵だし。
 はっきり言って何が描いてあるかさっぱりわからないような絵は、さっぱり理解不能だ。
「理屈で理解しようとするな。ぱっと見で何か感じ取ればそれでいいんだ。感性の問題だ、感性の」
「はあ………」
 だって、何とか派って絵なら、それぞれ何とかっていう共通項があるはずだろう?
 だからどれが何とかなのかを絵の中で探してしまう良太は、絵を見に行っても時間がかかるのだ。
 感じ取るって言われても。
「そう言えば、沢村や藤堂さんも初釜にぜひとか、紫紀さん言ってたから、それも伝えないと………」
「いいから、寝るぞ」
 ブツブツ呟いている良太の腕を引っ張って、工藤はベッドに向かう。
「え、……んだよっ! 酒足んないって言うから来たんだぞ。あんたすんげ疲れてるんだろ?」
 どこかで聞いたようなシチュエーションに、良太は抗議してみる。
「だから、疲れにはお前が効くんだろうが」
「何だよ、それ!」
「黙って食われとけ」
 唇を塞がれて、ジャージを脱がされ、工藤の肌に触れると、どうしたって一気に力が抜けていく。
「クリスマスのホテル以来だぞ」
 良太の身体も勝手にそれに同意している。
 舐るようなキスに息が上がり、工藤のエロい指に反応して良太の肌が発熱する。
 ちぇ、今年もオヤジなしじゃ、俺、ダメじゃん。
 そのうち何も考えられなくなって、良太は工藤の背中に腕を回し、ただただ与えられる刺激を甘受する。
 新しい年もまた、こうして始まった。

 


back  top  Novels