「もう、お兄ちゃん、またぼーっとしてる!」
「え………」
亜弓の声に、良太ははっと我に返る。
「何、考え込んでんのよ!」
「あ、いや、やり残した仕事、なかったよな……と」
良太はわけのわからないことを口にする。
自慢じゃないが、何かに考え込む、なんてことは子どもの頃から一切なかった。
うじうじするのが嫌いで、ダメでもともと、と前に突き進むのが信条だったはずだ。
無論、社会に出て仕事をするとなれば、否が応でも少ない脳みそをフル回転して考えたり、自分のやってることがダメ出しを食らうなんてことはいくらもある。
だが、それとは違って工藤のことか、工藤絡みのことではどうしてもうじうじ悩んでしまうのだ。
「ええい、しっかりしろっ、俺!」
どこぞの力士のように、良太は頬を両手でバシバシと叩く。
「やっだぁ、お兄ちゃん、何やってんのよ!」
「気合いだよ、気合い! 新年に向けての気合い」
笑い転げる亜弓に、良太は答えて、前を行く両親に追いつこうと足を速めた。
「待ってよ、もう、お兄ちゃん!」
お兄ちゃん、と呼ぶ亜弓の声に、良太はふと昔の家族が戻ってきたような気がした。
家族みんなが元気でいられますように。
と、それからとりあえず、工藤も元気でいられますように。
十二分に元気だぜ、あのオヤジは。
いい年こいて夕べもゼツリン………!!!!
手を合わせてから良太は、昨夜の工藤を思い出して、一気に赤面する。
とと、神様の前で、不謹慎じゃん、消えろっ!!!
まあ、今のところ、工藤の周りには手料理なんぞ作ってくれそうな女もいそうにないし。
今年も工藤と一緒にいられますように。
それが良太の願いだ。
「え、これ?」
二日の夕方、今から帰るという良太に、百合子が大きな紙袋を差し出した。
「だって、社長さんもおひとりでいらっしゃるって言ったでしょう? お口に合うかわからないけど、お土産といってないから、こんなものでよかったら召し上がっていただこうと思って」
紙袋の中の三段重ねのお重はずっしりと重たい。
「ひとりだっていったって、きっと取り巻きの女が何人もいそうじゃない、そんな気を使うことないわよ、お母さん」
「亜弓!! はしたないこと言うんじゃありません」
傍から工藤の悪態をつく亜弓を一喝して、百合子は良太に向き直る。
「お口に合わなければ、会社の方と良太がお食べなさい」
「ありがとう、母さん」
母の気持ちが目に沁みる。
何だかすぐにも工藤に会いたくなった。
両親が働く旅館の温泉にゆっくりつかり、二日は休みをもらった両親としばし一家団欒な正月を満喫した。
本当は工藤には、三が日、ゆっくりしてこいといわれたし、良太も帰るのは三日と思っていた。
「鈴木さんが今日は都合が悪くなったっていうから、ナータン心配だし」
勝手に言い訳に使った鈴木さんには、心の中で平謝りする。
もちろんナータンのこともあるのだが、百合子が口にしたように、おひとりでいる社長、の顔が急に見たくなった。
「からだに気をつけてね」
「うん、母さんたちも。また連絡するから」
逸る心を抑えてアパートをあとにすると、良太は工藤のいる東京へと帰途についた。
back top Novels
